『週刊少年ジャンプ』2016年50号の感想
こんばんは。ほあしです。
今週のジャンプの感想です。
◆『僕のヒーローアカデミア』No.115「アンリーシュド」
サブタイの"unleashed"は「解放された・抑制が効かなくなった」というような意味の英語です。これまでオールマイトが唱え続けてきた「私が来た」という呪いから解き放たれた「自己に誠実な連中」のことですね。オールマイトという巨大な抑止力が消え、その後釜たるエンデヴァーへの支持が今ひとつ大きくないことで「超人社会」の平穏がいよいよ崩れ始めているよということを、敵連合の一員の視点で語るお話でした。
ハイライトとしては、「大事なのは自分が誰なのかよく知ることだ」「自分がどうなりたいのか・・・どうしたいか・・・それがとても大事なんだ」という一連のモノローグでしょうか。かっちゃんが敵連合に拉致された時もこの話は出てましたよね。ヒーローよりもヴィラン向きだと周囲から思われたかっちゃんが「俺は"オールマイトが勝つ姿"に憧れた、そこはもう曲がらない」と言い切ったあたりです。敵連合の暗躍によって超人社会における正義の軸そのものが揺らいでいるからこそ、ああいう自己の確立が今後より一層大事になってくるよと、そういう話なんだなと思いました。
あと、今回狂言回しになったヴィランくん(名前出てましたっけ?)、めっちゃ面白いキャラ造型してますよね。正反対のことを立て続けに口走る描写は"開闢行動隊"のときからありましたが、「なんでも2倍にする個性で人格も2つに増えちゃった」みたいな単純なアレではなく、「個性の使い方を誤ったせいで間接的に発狂して分裂症じみた症状が出ちゃってる」みたいなバランスなのが個人的にすごく好きです。こっちのほうがイカれ方の経緯が人間的ですよね。「覆面で顔を包むことで安心する」というのも心理療法めいてて面白い。まあこういうのをあんまり「面白い」とか言っちゃいけないのかもしれませんが。
で、時間が少し遡って、オールマイトがオール・フォー・ワンに「ケジメをつける」とのことですが、何を話すつもりなんでしょうね。いまオールマイトがオール・フォー・ワンから話を聞こうと考えるような事柄となると、思いつくのはやはり「死柄木弔と志村菜奈の関係」についてなんですが。志村菜奈の子供は幼いうちに里子に出されたために消息不明になっているとの話がすでに明かされていましたが、ではなぜその子孫をオール・フォー・ワンが探し当てることができたのかなど、確かめておくべき事柄はありますからね。その情報の経路次第では内通者に繋がる可能性もありそうです。
◆『火ノ丸相撲』第121番「怖いもの知らず」
国宝『大包平』こと加納くんの掘り下げ回ですね。彼の戦う動機は「負けるのが嫌」「自分の好きな白楼高校相撲部のメンバーに敗北の苦渋を味わってほしくない」というところにあるようです。この点について栄華大付属の主将・四方田さんは「自分の外にばかり理由を求めるやつは普通一流にはなれない、なのにあいつは強いから底が知れない、"天才"なのかもしれない」と評価しています。
「勝利を求める理由が自分の外にある天才」というのは、ずばり現在のチヒロそのものなんですよね。先週は「蛍くんのために勝ってやりたい」という点がきわめて強調されていましたし。もちろんチヒロには「総合格闘技で頂点を獲る」という強い内的な動機があるんですが、しかし相撲という競技そのものは、彼にとっては「総合格闘技を極めるための足がかりの一つ」でしか無いわけです。だからこそ、彼が『大典太』を破った回には国宝としての銘ではなく『国宝喰い』という異名が登場したりしたわけで(しかもこの異名は他人が勝手に言い始めたものではなく、チヒロ本人の自称です)。彼のメンタリティはあくまでも「力士」ではなく「格闘家」なんですね。
(川田『火ノ丸相撲』12巻149頁)
この二人を決定的に分けるのはたぶん「敗北への恐れの大きさ」ということになるのでしょうね。加納くんが「負けたら全てが無意味になる」ということを言っているのも、敗北に対する恐怖の裏返しのようですし。敗北の恐ろしさを誰よりも知っている加納くんが勝つか、敗色濃厚な戦いにも腐らず踏み込んでいく「怖いもの知らず」が勝つか、楽しみです。
◆『左門くんはサモナー』第57話「左門くんは頑張り屋さん」
良いですね・・・。何というか、個人的にいろいろ期待していたものがたくさん見られて大変嬉しいですといった感じ。
左門くんがウィスプを大量召喚したときのセリフは、第1話でてっしーを助けたときに言った内容の完全な反復になっていますね。
(沼駿『左門くんはサモナー』1巻38頁)
ただ、この時と違っていまの左門くん、明らかに目が据わっているんですよね。マステマに対して怒りを感じていることはもはや明確です。
ボディスやイフリートの不意討ちも、マステマは全く意に介しませんね。このあまりにも圧倒的な強さ、個人的には『BLEACH』の尸魂界篇最終盤で叛意を明らかにしたときの藍染がオーバーラップしてしまいます。ボディスの剣を指で止めたりイフリートの巨大な拳を正面からねじ伏せたりという所作が、一護の刀を指で止めたり『黒縄天譴明王』を両断したりしたあの当時の藍染にすごく重なります。藍染にしてもマステマにしても、「こいつはもう洒落にならんくらい強いんだな」というのが一目で分かる描き方なんですよね。
ネビロス復帰以降の流れについては、正直ネビロスが出てきた時点で「あ、わざと召喚されての受肉解除展開、ここでやるつもりなんだな」というのを完全に確信してしまったので特に驚きはなかったんですが、まあやっぱりアツいですよね。ネビロスの受肉は、左門くんが彼にとっての宿敵であることの証だったわけですから。この二人、茨木童子との戦いでは「仲が良いわけじゃないけど互いに互いを知り尽くしている戦友」感みたいなものを結構強調されてたように思うんですが、今回の共闘展開はそのあたりの描写のある種総決算的なところもあるかなと思います。普段召喚している悪魔たちのことを「友達」と言って憚らない左門くんなので、ネビロスのことも実のところそれくらいの距離感で思ってたりしてほしいなと個人的には思ってます。
あと、あくまでもギャグの一貫として描かれてきた事柄をシリアス設定として回収する、というのが個人的には好きなんですよね。今週の「どんな魔法陣でも目隠し状態で両手同時並行で10秒以内に書ける」という話も、当初は「脳トレじみたキモい特技」として言われてました。というかまあ実際には「シリアス編で使うつもりのガチな設定をギャグっぽく紹介しておく」という計算のもとに描かれたものだと思うんですが。能力バトル文脈で設計される特技や個性って、実際の社会生活の文脈に置いて見てみると普通に「キモッ」ってなるものがたぶん結構多いと思うんですけど、その文脈の違いによって生じるギャップをうまく活かした作劇だなと改めて思います。
マステマ編、いよいよ佳境といった感じですが、これこのまますんなり終わるんですかね。マステマの造型って、それこそ左門くんとは絶対に相容れない不倶戴天の宿敵そのものだと思うんですけど、そういうキャラをメインに据えたシリアス展開をこんなに早く畳んじゃって良いんだろうかっていう疑問はわりとあるんですよ。ここでマステマ編に片を付けたとして、今後また別のシリアス展開をやるときにマステマ以上の敵役を作れるのか、という話でもあります。まさかここまでやっておいて「シリアスはこれで終わり、今後はコメディ一本でいきます」とはならないでしょうし。まあこんな心配は余計なお世話かもしれませんが。
◆『鬼滅の刃』第38話「本物と偽物」
蜘蛛パパを瞬殺した冨岡義勇、あらゆる面で伊之助や炭治郎との格の違いを見せつけてくれて非常に格好良いです。敵の力量を見極める眼力にしてもスピードにしても、普通の鬼殺隊の戦士とは比べ物にならないようです。炭治郎は第1話でこの人を相手にして殺されずに済んだわけですが、この強さを見るかぎり、当時の冨岡は全く本気ではなかったのでしょうね。
場面が変わって炭治郎と蜘蛛少年(累という名前のようです)の戦況へ。累は"絆"というものに強烈なこだわりを持っているわけですが、彼は恐怖に基づいた絆が炭治郎と禰豆子の間にある「本物の"絆"」よりも強いものだと思っているようで、ここがちょっと疑問なんですよね。なぜ彼はわざわざ禰豆子を欲しがるんでしょうか。家族としての「本物の"絆"」をいま禰豆子は確かに持っているのかもしれませんが、それは累が禰豆子を奪って結ぼうとしている「恐怖の"絆"」とは別に関係ないことだと思うんですよね。禰豆子が同じ鬼だからとか、そういうことなんでしょうか。
まあそれは良いとして、そこからの炭治郎のセリフがすごく良いですよね。「その根本的な心得違いを正さなければお前の欲しいものは手に入らないぞ!!」とか、言葉のチョイスがいわゆる少年マンガでは少し珍しいタイプの丁寧さというか、五峠先生の台詞回しのセンスが垣間見えるなと。『鬼滅の刃』は大正時代の日本が舞台なわけですが、この多少持って回ったようなというか、ほんの少しだけ時代がかったような言い回しが、その大正の空気感にもよく合っていると思います。時代物的な側面のある作品であまり現代的な言葉遣いをされても困りますからね。あと、「俺が先にお前の頸を斬る」という宣言も非常に格好良い。自分と禰豆子の絆を愚弄するような相手は絶対に許さないという覚悟を感じます。
で、累こそが十二鬼月であるということがここで明かされたわけで、やっぱり先週のアオリは担当者のミスだったんだなと。今後はああいうことが無いようにしてもらいたいもんです。
◆『レッドスプライト』第12話「決戦」
2週続けて感想を書き忘れていました。掲載順位は依然低空飛行ですが、なんか意外と続くのかもしれない・・・? 少なくとも単行本2冊分までは続けさせてもらえそうな匂いを感じます。それまでにどうにか軌道に乗って欲しいところです。
前半のアルフレッドの奮戦と回想、回想の内容についてはすでに語られた事柄を補強するくらいのもので、大きな新事実みたいなものは特に無かったんですが、戦闘と回想を交互にはさみ続けることで「祖国を守る防衛戦の最中にアルフレッドがリアルタイムで回想している」という描き方になっていて、この趣向が個人的にすごく好きですね。「先の大戦で子を失った多くの兵が アルを実の子のように思っています」の直後に見えるアルフレッドの笑みとか、本当に堪りません。祖国のために戦えることを彼は本心から幸福に思っているんだということが一層強調されてますよね。だからこそ痛ましくもあるわけですが。
タツ、当然どこかのタイミングで加勢はするだろうというか、本当にこのまま退散したりはしないだろうとは思っていましたが、まさか真正面から戦闘に介入するとは思いませんでした。友軍として別方面からエデニア軍を強襲するとか、そういうレベルだろうと思ってたんですよね。まあタツの言うとおり、たとえナルビオン上空に居残っても真正面から勝利してしまえば普通に脱出も可能になるわけですが、印象としてはちょっと脳筋じゃない?とか思わないでもないというか、「万が一負けちゃったときの身の処し方とかちゃんと考えてる?」みたいなのはちょっと思いますね。まあ屋宜先生なのであまり心配はいらんかなとも思ってるんですが。
必殺モノサンダーで雷髄人間をまとめて始末した一連の描写は面白いなと思います。電力を用いて戦う雷髄人間でもあまり過剰な電気には耐えられないというのは「うん、そら人間なんだから当然そうだよね」という納得がありますし、何より「狙った相手のみにピンポイントで雷を喰らわせる」というのが単純に神様じみてて格好良い。しかしこれも実際には照明弾や避雷針弾などを利用した泥臭い戦術で、そこのギャップがすごく好きです。
最後に登場した「遺灰兵士(アッシズ)」ですが、この単語は物語冒頭の軍事パレードでデイビッド・アトラスとともに登壇していた6人の将校の呼び名として一度登場していましたね。余白部分のアオリには「自決した兵の遺灰を纏い、召喚――」とありますが、彼らが具体的にどういう存在なのかは分からないものの、とにかくめちゃくちゃヤバそうだということははっきり分かります。これ普通に不死者なのでは・・・?
『レッドスプライト』、内容的にはものすごく好きなので、あとは絵にもう少しケレン味があれば全然イケると思うんですよね。各種ガジェットのデザインがちょっと地味すぎて目には退屈に思えることがあるので、絵的なハッタリをもっと活用する方向でアレしてほしいなと個人的に思ってます。
今週の感想は以上です。
ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
それでは。