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『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第627話「The Creation」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週の『BLEACH』の感想です。

 

BLEACH』第627話「The Creation」

 いよいよ霊王大内裏に到着、というところで雪緒のマイペースっぷりが発揮されてますね。彼はもともと気分屋というか、自分自身が乗り気じゃないことについてはよほど強要でもされない限り承服しない性格でしたが、この状況でも尚それを貫けるというのはかなりの強心臓ですよね(多少長い付き合いであろうリルカですらもドン引きしてます)。そして一護は、雪緒とともにリルカにも黒腔に残るよう言います。リルカの能力では「この先の戦いは危険なだけ」だからということですが、たしかに彼女の能力は戦闘行為には甚だ不向きなんですよね。親衛隊の面々を相手に彼女の能力がうまくハマるようにも見えませんから、これはごく真っ当な判断だと思います。

 

 で、一護がリルカの能力について「カワイイものしか気に入らねえ、気に入ったものしか箱につめられねえ」と表現していますが、一護のこの言葉は、リルカの能力ドールハウスについて従来なされてきた説明と少し食い違っているように見えます。

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久保帯人BLEACH』50巻41,53~54頁)

 〈死神代行消失篇〉でリルカ自身によって行なわれた説明を読む限り、リルカが「カワイイ!」と思う必要があるのは、対象を出し入れする「容れ物(今週の一護の言い方に従えば「箱」)」の方であって、その中に詰めるものについては特に説明や注釈は無いんですね。実際、リルカは自分の用意したブタのぬいぐるみ(ブタ肉さん)の中に、往来で拉致したヤクザ風のオッサンを入れたりしています。

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久保帯人BLEACH』50巻58頁)

 つまり、中に詰めるモノが「叫谷」などという味も素っ気もない空間であったとしても、その容器がリルカの気に入った「カワイイもの」でさえあれば能力の行使には何の問題もない、ということになるはずなんです。

 

 このように過去の描写と照らし合わせてみると、リルカの能力に関する設定が一見ブレているようにも見えますから、「これはおかしいんではないか?」と思った方もいらっしゃるかと思います。しかし、今回一護が言っているのは、そういう水準の話では無いと思うんです。一護が言っているのは「リルカの完現術能力では不可能なはずのことを無理してやってくれた」という意味ではなく、「リルカの信念としてやりたくないはずのことを無理してやってくれた」という意味だと思うんです。

 というのも、先に挙げた画像にもあるように、リルカは基本的に「カワイイもの」にしか興味を持たない人物です。完現術がどうのこうの以前の人格的な部分にそういう前提があるわけです。彼女の完現術はそうした彼女の信念をそのままかたちにしたような能力ですよね。自分の好きなモノをこれからも見つけ続けて、そのたびに自分のコレクションに加えていきたい、という彼女の願いをずばり叶えるためにあるような能力です。

 で、こういう信念の持ち主にとって、「カワイくも何ともない」モノを自分のコレクションに(一時的なこととはいえ)仲間入りさせるというのは、それなりに不愉快なことなのではないかと思うのです。

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久保帯人BLEACH』54巻27,35頁)

 リルカは、自分が気に入ったモノの中にであれば、人でもモノでも何でも収納することができます。しかし、「何でも収納できる」からといって、「何でも収納したいと思う」ということにはなりませんよね。いま挙げたリルカの回想からもわかるように、この完現術は「リルカが気に入ったものを隠して自分のものにするための能力」ですから、裏を返せば「気に入らないものに対しては使いたくない能力」ということになります。使えない、ではなく、使いたくない、です。

 一護はリルカ本人から、彼女の「好きなモノ」に関する信念を聞かされていますから、リルカが「心情的な意味での無理」をして能力を行使したことに気づいたんだと思います。そして、一護のその言葉がそれなりに図星を突いていたからこそ、それを聞いたリルカは思わず顔を赤らめなどしてしまったんだろうと思います。自分が大変な思いをして頑張ったということに言わずもがなで気づいてもらえたのが、リルカは思いがけず嬉しかったんですね。「報われた」という言い方をすると少し大仰かもしれませんが、そういう感じで。 

 

 一護がこういう気遣いのできる人物であるというのはこれまでにも繰り返し描かれてきたことですが、本当にいい男になったもんですね。岩鷲も言っているように、一護はもともと他人の心の機微に敏い(特に刃を交えた相手に対しては軽く心を読むようなことすらできる)人物でしたから、一護の中で何かが大きく変わったというわけではないのですが、そうした面がより強くなっている、以前から持っていた性質がより成長している、というふうに感じたのではないかなと思います。一護「変わらなさ」については〈死神代行消失篇〉の終盤で大きく描かれていたことでもあります。そもそも54巻巻頭の詩が「仲間を護って戦う」という一護の変わらぬ決意について触れたものですから、これが一つのテーマになっていたことがはっきりとわかりますよね。

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久保帯人BLEACH』54巻 巻頭,136~138頁)

 

  今週のタイトルは「The Creation」です。定冠詞付き大文字で”the Creation”という場合、例によってキリスト教神学における天地創造」「創世」を意味する言葉になります。先週のユーハバッハの「まずは我等の国家を創り変えよう」というセリフに対応したものでしょう。最後の審判で旧世界を滅ぼし、新たな神の国を「創世」するつもりのようです。世界の終りと始まりを同時に行なおうということですね。

 地上に展開されていた『見えざる帝国』の街並みが剥がれ、どうやら上空の霊王宮へ向けて昇って行ったようです。一護らが黒腔を出たときに地上と同じような『見えざる帝国』の街並みが広がっていたのは、地上で剥がれた街並みが霊王宮で組み直されたからではないかと思います。地上から天上の世界へ居を移したという感じでしょうか。「神の国」とはいわゆる「天国」のことですから、天に存在するのは当然のことですね。地上組の「門」完成からの開門もこれとほぼ同時の出来事だったようですから、来週以降、一護らと地上組が合流して改めて戦いに臨む感じになるのかなと思います。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。