Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第620話「Where Do You Stand」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週の『BLEACH』の感想です。

 

BLEACH』第620話「Where Do You Stand」

今週のタイトルを直訳すると「あなたはどこに立っているのか」といったところでしょうか。敵に回ってしまった雨竜に対して仲間たちが抱いている疑念・困惑を端的に表現したフレーズでしょう。

余談ですが、先日、久保先生がTwitterでこんなことを仰っていました。今週のタイトルが普段ほど強調されないかたちで挿入されているのを見るに、この回のことを仰っていたのかなと邪推しています。

 

 崩壊が進む霊王宮で、一護と雨竜が対峙します(崩壊に巻き込まれたペルニダが地味に中空へ投げ出されていますね)。雨竜は、ユーハバッハが世界を崩壊させるつもりでこの戦いに臨んでいると承知のうえで「見えざる帝国」の麾下に加わっていることを明言しました。むしろそのことを分かっていない方がどうかしているとすら言えるくらいに切迫した状況ですから、雨竜のこの返答は当然のものと言えるでしょう。「なんでまだお前はそこにいるんだよ」との一護の問いに、雨竜は「僕が滅却師だからだ」と返します。

 この返答は、一護にそれなりの衝撃を与えたようです。「滅却師であること」が雨竜の行動理念の少なくとも一部分を成しているということ自体は、これまでの雨竜との付き合いから一護も理解していました。

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久保帯人BLEACH』55巻133~134頁)

しかし、滅却師の始祖であるユーハバッハから滅却師としての血がその者の行動や考え方を決定する」という話を聞かされたあとで、他ならぬ雨竜から「自分は滅却師だからユーハバッハの陣営にいるのだ」と聞かされれば、その言葉の意味するところは全く変わってくるでしょう。一護からしてみれば、一護自身については「滅却師の血など関係ない」と言いきることもできますが、雨竜が「滅却師であること」に対して誇りを抱いていることを一護はよく知っているわけですから、「雨竜にとってはこの世界の存続よりも”滅却師の血”のほうが大事なのかもしれない」という迷いが当然生じてしまうわけですね。そういう意味での衝撃がこの場面にはあるのだと思います。

 

 ペルニダに少し遅れて、ユーハバッハの親衛隊が全員合流しました。冒頭で中空へ投げ出されたペルニダがジェラルド・ヴァルキリーの小脇に抱えられて戻ってきているのが非常にかわいいです。

雨竜が親衛隊のことをわざわざ「シュッツシュタッフェル(Schutzstaffel)」と呼んでいるのは、明らかにナチスの親衛隊(=SS)を意識してのことでしょう。「見えざる帝国=ナチス・ドイツ」という読み方がさらに説得力を増したと考えてよいのではないでしょぅか。

親衛隊 (ナチス) - Wikipedia

hoasissimo.hatenablog.com

 

 チャド・織姫・岩鷲の三人が親衛隊に包囲されましたが、雨竜は明らかに、彼らが手を出すまえに「霊王宮から叩き落とす」ことで戦闘を終わらせようとしています。その企みを見越したリジェが一護を狙撃していますね(霊子の”弾丸”が発射されていることから、『万物貫通』を使用したわけではなさそうですが)。雨竜はリジェの言いたいことを先取りして言ってしまうことによって「同志」であることを示そうとしています。ジェラルドはこれで納得したようですが、他の面々もこれで信用するかと言われればきわめて怪しいところですよね。以前、雨竜がユーハバッハの後継者に指名されたときにハッシュヴァルトが側近に説明していたとおり、雨竜は確実に「身動きが取れない」状況へ追い込まれているようです。

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久保帯人BLEACH』61巻73~74頁)

 

 ミミハギ様を引き剥がしたユーハバッハは、その黒い霊王の右腕に対して「子である私を取り込まんとするか」と言っていますね。ユーハバッハは「霊の右腕よ」と呼びかけていますが、この言葉については少し気になったので、Twitter上で久保先生に以下のような質問をしまして、回答を頂きました。

というわけで、このセリフは誤植だったようです。霊王の右腕をわざわざ「霊子の右腕」と言い換える理由も見当たりませんし、やはりといった感じでしょうか。

 

以前も言いましたが、ユーハバッハが霊王を「我が父」と呼び、自らをその「子」と呼んでいるさまは、どうしてもキリスト教における「三位一体」の考え方を踏まえたもののように見えます。霊王の右腕を吸収したユーハバッハが今回「霊王の全てを奪おう」と宣言していることにも同様の示唆を見出すことができて、「父なる神」である霊王と「子なる神」であるユーハバッハが一つになることで、「三位一体」の状態に近づくことになるのではないかと私は思うんですね。だとすると「聖霊なる神」にあたる者もどこかにいて、その者も今後大きく関わってくるのかも・・・とか。そういう役回りがありえそうなキャラといえば、やはり「神に近い能力」を持つ織姫や藍染などでしょうか。

とはいえ、「三位一体に近づいたから一体何だって言うんだ」と訊かれても現時点では「まだ分かりません」と返すしかないので、結局は今後の展開を見守ることしかできないわけですが。

 

 閑話休題。ユーハバッハが霊王の右腕を吸収したことで、尸魂界の崩壊もまた再開したようです。霊王の右腕を吸収したユーハバッハの左眼は、瞳の部分を残して黒く染まっていますね。そのありさまは、崩玉と融合した藍染、あるいは霊王の眼によく似ています。ユーハバッハが「神」に近づいている証でしょう。霊王の力を奪いつくすまでの時間稼ぎとして、ユーハバッハが地上へ向けて黒い霊圧を噴出したところで今週は終わりました。

この霊圧は血管を伝っているかのような描き方がされていますから、『外殻静血装』のような特殊な「血装」なのかもしれませんね。そう考えると、この霊圧が「黒インクでベタ塗りされている」からといって「作品世界の内部でも黒い色と見做されている」とは限らないかもしれません。

BLEACH』では基本的に「血液の赤色」はインクのベタ塗りで表現されていますから、このユーハバッハの霊圧が「血装」であるとすれば、これが赤い色をしているという可能性も十分にありうるかなと思います。色彩についてこういう解釈の余地が広く残っているというのは、日本の雑誌連載マンガの大勢を占めている「白黒」マンガの面白さのひとつですね。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。