Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第619話「The Betrayer」の感想・考察

こんにちは。ほあしです。

今週の『BLEACH』の感想です。

 

BLEACH』第619話「The Betrayer」

 先週に引き続き、一護とユーハバッハのやり取りから始まります。先週からユーハバッハが特に強く主張している「思い通りになるかどうかは 私のこの眼が決める事だ」という信念や、滅却師「血」によって人間の行動が規定されるという考え方は、いわゆる決定論者のそれですね。それも神学的決定論と遺伝子決定論の併せ技という筋金入りです。一護に対して「お前の意志は全て 私の意志と繋がっている」と言いきり、一護本人の自由意志の介在をほぼ否定してしまっていますから、これは明らかと言っていいでしょう。また、これほど分かりやすい描写が続いているのですから、キリスト教的宗教団体が「見えざる帝国」のモチーフの一つになっているという見立てもまた、もはや間違いないものと考えてよいだろうと思います。また、この台詞は、以前にハッシュヴァルトが言っていた言葉とも符合していますね。

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久保帯人BLEACH』63巻89頁)

作品論6 〈千年血戦篇〉=ナチス・ドイツの世界侵略 - Black and White

 

 一護はあくまでもユーハバッハを「止める」と言っていますが、ユーハバッハは「そこで”殺す”と言えぬのが お前の弱さよ」と言っています。このユーハバッハの言葉は、これまで何度も繰り返されてきた「一護の甘さ」に関する描写のリフレインになっていますね。一護がこれまで明確に殺意を抱いたとわかる相手は月島秀九郎ただ一人であり、一護は基本的に人を殺すために戦うことはしないのだ、ということも思い起こされます。また同時に、〈死神代行篇〉の虚退治対決、〈尸魂界篇〉の雨竜vs涅戦、〈破面篇〉の東仙vs狛村戦、〈千年血戦篇〉のバンビエッタvs狛村戦などで繰り返されてきた「復讐」というテーマのリフレインにもなっています。

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久保帯人BLEACH』6巻143頁)

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久保帯人BLEACH』14巻199頁)

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久保帯人BLEACH』15巻56頁)

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久保帯人BLEACH』44巻162頁)

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久保帯人BLEACH』45巻24頁)

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久保帯人BLEACH』62巻143頁)

 

 『BLEACH』の世界では、基本的に「復讐」は成就しないものとして描かれています。成就しないというよりは、復讐を完遂するのとは別のかたちで復讐者の感情を昇華させることが多い、とでも言いましょうか。いずれにせよ、一護がいまさら復讐者に身を落とすことはないだろうと思います。一護は、母・真咲の死の責任は自分自身にあると考えて生きてきたわけで、それについて復讐する相手が仮にいるとすれば、それは自分自身になるはずだからです。

真咲の直接の死因は9年前の『聖別』そのものではなく、グランドフィッシャーとの遭遇がたまたま『聖別』のタイミングと重なってしまったことで、力を奪われた状態で虚と戦うことになってしまったという不運なめぐり合わせによるものだったわけですから、一護がグランドフィッシャーに手を出しさえしなければ真咲は多少生き永らえた可能性がある、というふうに考えることは一応可能なんですね。「真咲の死の原因を作ったのはユーハバッハである」ということを知ったあとも一護がユーハバッハに殺意を向けようとしないのは、こういう勘繰りの余地が残っているからではないかと私は思います。殊、真咲の死について、一護は過剰なほどに内罰的な考え方をしていますから。

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久保帯人BLEACH』3巻42~43頁)

 

 というやり取りを遮るようにして、ついに雨竜が戦線に立ちましたね。分かっていたことではありますが、夜一に対しても躊躇いなく矢を放ってくる辺りを見ると、かなり強い覚悟をもった上で「見えざる帝国」に合流しているらしいことが読み取れます。また、ユーハバッハの親衛隊の一員、星十字騎士団”C”のペルニダ・パルンカジャスも合流していることから、おそらくは残りの親衛隊とハッシュヴァルトもほどなく参戦するでしょう。

 フードに隠されたペルニダの正体は相変わらず全く計り知れませんが、まあ普通の人間ではないのでしょうね。個人的には、ペルニダという名前の響きにスペイン系の雰囲気があるので、何らかのかたちで虚や破面と強い関係をもった人物ではないかなと思ったりしています。「破面くずれの滅却師」というのが「見えざる帝国」の戦力として存在しているようですし。

 

 霊王の死体を繋ぎ留めていたミミハギ様をユーハバッハが引き剥がしたことで、再び世界の崩壊が始まりました。霊王宮そのものが崩壊し始めていますから、いよいよもって世界の終りが近づいているように見えます。雨竜と一護が互いの名を呼び合うところへカットインするかたちで今週のタイトル「The Betrayer」が示され、幕です。言うまでもなく、「見えざる帝国」へ寝返った裏切り者・雨竜のことですね。この「裏切り」にどういう狙いがあるのかは、これから明かされるでしょう。以前、裏切ったり罪を犯したりしたように見える仲間の無実を晴らす物語としての側面が『BLEACH』にはある、という話を書きましたが、〈千年血戦篇〉もまたその流れを踏襲して、「裏切り」も已む無しと思えるような事情が明かされるのだろうと筆者は考えています。

作品論4 ~『BLEACH』という題名の意味~ - Black and White

一護の悲痛な表情は、雨竜が平気な顔で夜一に攻撃しているのを目の当たりにしたことで、見かけ上、雨竜の「裏切り」がほとんど決定的になってしまったからでしょう。「ブン殴って連れ戻す」と息巻いていたときとは対照的な悲痛さです。強がっていたのだということがよく分かります。

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久保帯人BLEACH』65巻125~126頁) 

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。