Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

久保帯人先生の読切『BURN THE WITCH』の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

大変ご無沙汰しております。

本日発売の『週刊少年ジャンプ』2018年33号に掲載されている、久保帯人先生による新作読切『BURN THE WITCH』の感想です。

これはさすがに感想をしっかり書いておきたい、書いておかねばならないと思い、久方ぶりの更新です。

よろしくおねがいします。

あ、いちいち言うまでもないこととは思いますが、各種ネタバレには一切配慮しませんのであしからず。

 

とりあえず全体的な雑感を。

非常に面白かったですね…。「魔女」「ドラゴン」「リバース・ロンドン」というキーワードと主人公二人のビジュアルが事前に公開されていたため、期待と想像を大いに膨らませていた(ほあしは『ハリー・ポッター』シリーズが大好きなのでもうキーワードの時点でワクワクが止まらなかった)のですが、その期待を遥かに大きく超えてくる作品でした。ロンドンの裏側とドラゴンをめぐる舞台設定はオーソドックスながらやっぱりハリポタ的な近現代魔法世界モノのノリを感じさせてくれますし、主人公はどちらもチャーミング(特にノエルは本当に可愛い!)で、あと登場するドラゴンたちもいちいち可愛い(ノエルが乗ってるウーパールーパー的なブルームバギーちゃんを飼いたい、そらをとぶを覚えさせたい)ですし、バトル描写の迫力についてはもう言うまでもないですし、バルゴとセルビーの一連のやり取りを見たノエルがちょっと褒めてあげたりするくだりは紛うことなきラブコメでしたし、「パンツ見せて!」から始まった物語がパンチラで終わるというのも構成として綺麗かつキュートでした。さっきからほとんど「可愛い」しか言ってませんが本当に全てが可愛いんだから仕方無くないですか?(いきなりキレないで)

まあキュートで可愛いばっか言うのもアレなのでちょっと付け足すと、ノエルが本当に素敵なヒロインで、まず冒頭の「制服が好きだ 私が何者であるかを 誰にも証明しないで済むからだ」というごく手短なモノローグがすごく印象的なんですよね。表ロンドンにある学校の制服を着ることで面倒な身分証明から逃れることができる(おそらく『ウイング・バインド』の制服でフロントを出歩くと奇異の目で見られるのでしょう)というだけのことなんですが、「私はこれこれこういうものです」という自己主張を自ら発信していくことを好まない大人しめの人柄であることがここで分かるんですね。しかし、かといって自分の主張が「無い」ということではなくて、たとえばニニーが「戦術隊に入ってロンドンの街を守りたーい! あんたもそうでしょ!?」と問いかけたときには「私は今が性に合ってるのでいいです」と一蹴してみせたり、主任から「退治」の仕事に回ってくれと頼まれたのを「いやですよ」と一蹴してみせたりと、彼女には自分なりの価値基準がかなりしっかりあって、それを主張すべきときにはガンガン言っていけるだけの芯を持った人物でもあるんですよ。「自分はこんなやつだぞー!」と無駄に騒ぎ立てはしないけど言うべきことはちゃんと言う、非常に均整の取れた人物像なんですよね。しかもクールタイプの顔の良さがあってめちゃめちゃスタイルが良くてクソ強いのにめっちゃウブなので、100点満点で900000000000000000兆億点なんですよね。まいったか。

 

ほんでまあなんですか、いや~めっちゃ面白い読切で何よりでしたな~とか思いながら読了しようとしたら、最後の2ページでこれが『BLEACH』のスピンオフであったことが明かされてもうなんもかんも持っていかれましたよね。ただでさえ面白いのにそっちの意味の読み方もできるってマジでずるすぎる。というか『BURN THE WITCH』というタイトルに『BLEACH』という文字列がほぼそのまま組み込まれてるというのが恐ろしすぎます。言葉遊びがあまりにも巧すぎる・・・。

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(『週刊少年ジャンプ』2018年33号 261頁) 

 

というわけでここからは、『BURN THE WITCH』の舞台はどうやら『BLEACH』と同じ世界にあるらしいので、作中で言及されたところを中心にどういう繋がりがあるっぽいのか確認していこうかなと思います。

 

まず「魔女/魔法使い」なんですが、これはたぶん滅却師や完現術者に相当する存在っぽいんですよね。ノエルはいま17歳とのことなので死神みたいな超長寿命の魂魄存在とかではなく普通に生身の人間と見るべきでしょうし、ノエルが使用した「対竜絶対殺害砲(アブソリュート・ドラゴン・シャッター)」の閃光のかたちがなんか滅却師的な雰囲気があったりしますし、まあ似たような力を使ってんのかなぁという感じがします。

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(『週刊少年ジャンプ』2018年33号 254~255頁)

 

次に「ドラゴン」ですが、これはたぶん『BLEACH』で言うところの「整(プラス)」、ごく一般的な魂魄に当たるのではないかと思います。これが人間と接触して負の感情を吸い続け、人に害を与えるように変質したものが「ダークドラゴン」と呼ばれ、こちらがいわゆる「虚」に当たるっぽいですね。「普通の人間の目には見えない」というのも共通点ですね。

ニニーがドラゴン保護について「日本じゃ問答無用で全部殺すんでしょ」と言っているのも、死神たちが「整」も「虚」も一様に「魂葬」で処理していることを指しているのかなと。厳密に言えば死神は虚を魂葬するときにも殺しているわけではないですし、整の魂葬にいたってはそもそも刃を振るう必要すらない(おでこにハンコを押してあげるだけで尸魂界に送られる)わけですが、この辺の認識の齟齬はおそらく、「死神たちの正しい実態を知らずに伝聞情報だけを聞きかじったために偏ったイメージが形成されている」ということではないかなと思います。あるいは、彼女ら自身の仕事相手が獣のようなナリをしたドラゴンばかりであるという関係上、往々にして獣じみた姿をしていることが多い虚に関する話だけを聞いて「あー向こうではドラゴンを虚って呼んでて全部殺しちゃってんだー」と拡大解釈しちゃってる、とかでしょうか。相棒であるノエルからして「血筋は日本人だけどロンドン生まれなので日本のことはよく知らないけど事あるごとに日本人ぶる」というめちゃくちゃテキトーなやつ(めっちゃ可愛い)なので、ちょっとした偏見というか非実在ジャパニーズ像みたいなのが余計に払拭されにくかったりしそうなんですよね。

あと、生き物の死骸に潜伏する「覆面竜(ディスガイザー)」の設定も、ドラゴンが魂魄的な存在であることを裏打ちしているように思います。生き物の死体に入り込んで動けるってことはそれはもう魂でしょっていう。『BLEACH』では「インコのシバタ」や「改造魂魄」あたりの話で「他者の肉体に魂魄が入り込む」という話をやってますし。

 

あと、これははっきり『BLEACH』関連というよりは久保先生の趣味的な部分に関わるっぽい小ネタなんですが、『ウイング・バインド』の制服に刻まれたシンボルや、あとは「バルゴ」という名前などにチラホラと黄道十二星座ネタが仕込まれているんですよね。ノエルたち"笛吹き隊(パイパーズ)"のマントには牡羊座のシンボル、ニニーが憧れる"戦術隊(サーベルズ)"のコートには蠍座のシンボル、そして「バルゴ」という名前は"Virgo"、すなわち乙女座を指す単語そのものです。

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(『週刊少年ジャンプ』2018年33号 210~211頁)

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(『週刊少年ジャンプ』2018年33号 257頁)

 

で、これの何が久保先生の趣味なのかというと、護廷十三隊にも星座ネタっぽいものがいくつかあるんですよね。具体的には『双魚理』(うお座)、『花天狂骨』(双子座)、あとは『蛇尾丸』を操る恋次へびつかい座)あたりです。まあだからといってたとえば星座の元ネタである神話の内容がマンガの内容にもがっつり絡んでくるんやでみたいな話ではなく、なんというかネタ出しの起点とかモチーフとして久保先生は星座ネタがわりと好きなんだろうなみたいなそういう話です。かぎりなく閑話です。

 

最後に「尸魂界 西梢局」 という記述です。

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(『週刊少年ジャンプ』2018年33号 260頁)

 

熱心な『BLEACH』読者ならこの文字列を見た瞬間に思い出しますよね。『BLEACH』にたった一度だけ登場したっきり一切言及されることのなかった「東梢局」という謎の単語を。

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久保帯人BLEACH』6巻 147頁)

 

これ、本当にここでしか登場しなかった単語で、関連のありそうなキーワードも特に見当たらなかったために本当に謎のままだったというか、正直言うと長期連載における設定のゆらぎみたいなアレでいつの間にやら消えちゃったいわゆる「死に設定」的なものかと私は思ってた(たぶん私以外にもそういう方がわりと多いと思う)んですが、今回「西梢局」という単語が出たことで非常にスッキリと世界観設定の見通しが開けたのではないかなと思います。

つまりはこれ、「尸魂界のなかでも洋の東西によって管轄エリアが分かれている」と解すればよいのだと思います。ざっくりと東洋側を管轄するのが「東梢局」、西洋側を管轄するのが「西梢局」なのでしょう。もしかしたら東西それぞれの局の中でもさらに細かい区分があって、護廷十三隊は日本だけ担当、ウイング・バインドは本当にロンドン周辺だけ担当、みたいなことなのかもしれませんが、そこまでの詳細はちょっと分からないので一旦措いときましょう。

面白いのは、日本では虚、ロンドンではドラゴンというふうに、死者の魂魄のあり方が全然違うっぽいことなんですよね。というか個人的には、「普通のドラゴンはさほど高度な知性を持たず、人間の感情を吸い取ってダークドラゴンになることで初めて人語を操ったりできるようになる」というあたりから、ドラゴンというのは人間以外の動物の魂魄が基盤になっているのでは?という気もするんですよね。じゃあロンドンでの「人間の魂魄」はどうなっとんねんという話になるんですが、すまんけどそれはわからん・・・。単に、どっちも人間の魂魄ベースだけど、国や地域ごとに信仰のあり方とか幽霊・怪異に対する捉え方って全然違うものなのでその辺の違いが死後のあり方に関わってくるとかそういうアレもありそう、みたいな? いやごめん正味なんもわからん。。。助けてくれ。。。

 

まあでもアレです、そりゃあらゆる設定の細部まで何もかも詳らかになんてなるわけがない(読切としては異例のページ数とはいえあくまでも読切作品です)ので、こういう風に『BLEACH』ワールドがまたさらなる拡がりと奥行きを備えたことをひとまず喜べばいいんじゃないかなと思います。というかこの作品、仮に『BLEACH』のスピンオフではなかったとしてもマジでめちゃくちゃ面白いですからね。実際、ラスト2ページまでは誰もがそういうつもりで読んでて、最後の最後にこのネタバラシを喰らってひっくり返ったたわけでしょうし。久保先生、本当に恐るべき作家と言うほかありません。最高です・・・。

 

という感じで、『BURN THE WITCH』の感想はここまでです。

 

さて、もう今さらここで宣伝するまでもないこととは思いますが、『BLEACH』に関連する全てのカラーイラストにくわえて、新規の描き下ろしイラスト・未公開ラフ・設定資料・またこのたび公開された読切『BURN THE WITCH』を収録した限定コミックなどを収めた集大成的なイラスト集『JET』が2018年12月に発売されます。

www.j-bleach.com

みんな買いましょう。

 

もう一つ、実写映画版の『BLEACH』が来週の金曜から公開です。

wwws.warnerbros.co.jp

自作品の実写化についてはそれなりに高いハードルを設定していて、これまでもたびたび話が来ていたのを断り続けてきた久保先生なんですが、今回はかなりしっかりと太鼓判を押すくらいの出来になっているようです(今週のジャンプに久保先生の直筆コメントが掲載されています)。みんな観に行きましょう。

 

というわけで、今回はここまでです。

お読みいただき、ありがとうございました。

次の更新がいつになるのかは分かりませんが、そのときにまだ覚えてくださったら、またよろしくおねがいします。

それでは。