Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第669話「刃Ⅱ」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週のBLEACHの感想です。

 

BLEACH』第669話「刃Ⅱ」

 やちるから卍解の力を受け取った剣八は、急激に霊圧が上昇します。このタイミングと剣八の変貌ぶりから考えて、これが剣八卍解であると考えてよいでしょう。

 ぱっと見た限りでは剣八卍解の名前を呼んでいないように見えるのが気になりますが、この点については次週以降に丁寧に説明されるのではないかなと思います。おそらくですが、久保先生のねらいとしては、ひとまず戦闘の顛末に一区切りつけてしまってから、改めて剣八とやちるの対話をじっくりと見せるつもりなんじゃないかと。もしかしたら傍目では見えないところ(たとえば剣八の精神世界の内部とか)で、剣八はやちるの真の名をしっかりと呼んでいるのかもしれませんし。剣八がやちるのことを何と呼ぶのか」というのはこの二人の関係性を描くにあたってはきわめて重要な問題なので、個人的には時間と紙面をガッツリ費やしてほしいところです。

 彼らの関係性は、剣八からやちるへの呼びかけ方次第で大きく変わります。剣八が彼女を「やちる」と呼べば「流れ者だった頃から寄り添いあって生きてきた、名無し仲間同士」ということになりますし、「『野晒』」と呼べば「剣八が生まれた時からその魂の内側に居た、剣八自身の半身」ということになります。逆に言えばこの問題は、「やちるは剣八からどの名前で呼ばれることを望んでいるか」という話でもあります。名無し仲間同士という関係でありたいのか、剣八の半身でありたいのか。彼らの対話では、そのあたりの決着がつくのではないかと思います。そして、それこそが彼らの〈訣別譚〉になるのではないかと。

 

 今週のタイトルは「刃Ⅱ」です。第577話「刃」を受けたものですね。第577話は剣八vsグレミィ戦のクライマックスであり、ひとことで言えば剣八が『野晒』を解放してグレミィの召喚した隕石をぶった斬った回」です。また別の言い方では剣八の『野晒』解放を目撃したやちるが己の正体を思い出し(?)、姿を消すに至った回」とも言えます(厳密には、やちるの失踪に剣八が気づくのはその次の第578話ですが、失踪のきっかけになる事態が起きた回であることは間違いありません)。

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久保帯人BLEACH』64巻119,130~132頁)

 また、この「刃」というタイトルは「剣八」という称号を言い換えた言葉だとも考えられるんですね。卯の花と更木剣八による斬術修行のなかで更木剣八の力の秘密が語られた第525話と、卯の花との修行を経て名実ともに「剣八」の名を継いだことを更木が宣言する第573話では、どちらも"edge(刃)"という語がタイトルに用いられています。

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久保帯人BLEACH』59巻83頁)

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久保帯人BLEACH』64巻50~51頁)

 第525話は"Edges"、第573話は"I AM THE EDGE"というタイトルです。各話の内容を踏まえて考えれば、ここでは"edge"の語が「剣八」という称号の言い換えになっているということは明らかです。「刃」というタイトルは、更木剣八が持つ斬魄刀の名前と、彼自身が持っている「剣八」という称号、その両方にスポットを当てたものなのだと思います。 

 

 卍解した剣八の姿は、明らかに「鬼」をモチーフにしていますね。弓親によれば「肌が赤い」とのことですし、スクリーントーン処理からもその変化は明確に見て取れます。また、剣八の額から二本の角が生えていて、犬歯の鋭さが強調されていることも分かりますね。「赤い肌と二本角と鋭い牙を持つ筋骨隆々の人間」という特徴は、一般的に想像されるオーソドックスな鬼の姿そのものです。

鬼 - Google 画像検索

 剣八が「鬼」であるというのは、これまでの描写とも大いに符合します。彼はただひたすらに戦いを求める「無明の地獄に棲む魔物」であり、殺し合いの愉悦に魅せられた「罪人」です。こういう人物を「鬼」として描くことは全く不自然ではないでしょう。

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久保帯人BLEACH』17巻134,149頁)

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久保帯人BLEACH』59巻55頁)

 また、『BLEACH』39巻の巻頭フレーバーテキストでは、「魔物」の「魔」という字に対して「おに」という読みが当てられたこともありました。

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久保帯人BLEACH』39巻巻頭)

 この巻は〈破面篇〉の中盤にあたり、ハリベルの従属官3人が召喚した『混獣神(キメラ・パルカ)』"アヨン"が表紙に描かれています。巻頭のフレーバーテキストの内容が必ずしもその巻の表紙に描かれているキャラクターに呼応したものであるとは限りませんが、すくなくとも39巻については、アヨンが周囲の者を見境なく殺しまくる、理性のない怪物であることを示唆したテキストと思われます。

 「理性を失って獣性が剥き出しになる」とか「戦いを求める殺戮の本能」とかいう話は、『BLEACH』における「戦い」というテーマの根幹そのものですよね。つまりこのテキストは、剣八との直接的な関係はないんですが、個々のキャラクター以前の、作品全体に通底するテーマに触れているテキストなんです。そのなかで「魔」という言葉に「おに」という読み方が当てられていることにはそれなりに意味があるんじゃないかなと思います。それこそ私がこのブログで繰り返し述べている「心を失うことで強くなる」という話にもそのまま繋がる話ですね。

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久保帯人BLEACH』25巻121~123,133,138~139頁)

 こういう描写の蓄積が過去にありますから、持ち主の「魂の精髄」たる斬魄刀、その真の姿であるところの卍解が、更木剣八というキャラクターにおいてはこういうかたちで現れるというのは、個人的にはかなり納得感があります。剣八はやはり魂の奥底から戦いを求めてやまない魔物、鬼そのものだったのだなと。

 ただ、ジェラルドが指摘している通り、これは卍解としてはあまりにも異様な姿ではあるんですよね。刀剣の常識を超えた巨大な姿を取るはずの卍解にしてはあまりにもちっぽけです。先に述べた通り、そもそも「卍解の名を呼んだ」という描写自体がまだありませんから、まだ剣八は完全な卍解には至っていないのかもしれません。もちろん、一護のように卍解としての力を小さく凝縮することで突出した戦闘力を得る」みたいな特殊な卍解である可能性も大いにあると思います。

 

 殴りかかってくるジェラルドの右腕を、剣八はなんと噛み千切ります。それも噛み付いた部分ではなく、上腕のあたりからほとんど根こそぎです。本当に獣じみていますね。人間的な理性を持つ者の力では絶対にできない戦い方でしょう。これまでは斬れなかったはずのジェラルドの円盾をも両断していますから、パワーアップしているのは間違いありません。

 勢い余って宙空へ投げ出されたジェラルドは、天使のような翼を得て飛行します。頭上に光輪が現れていないところを見るに完聖体ではないようです。いまにして思えばペルニダも完聖体を使っていませんでしたから、「霊王の肉体の一部」であるらしいペルニダやジェラルドは、そもそも完聖体を使えないという可能性もありそうですね。

 「希望の剣」を突きの体勢に構えて突進してくるジェラルドを、剣八が渾身の斬撃で両断して今週は幕です。ジェラルドの剣は何やら霊圧を帯びているようでしたから、直接的な斬撃ではなく神聖滅矢か何かを放つつもりだったのかもしれません。

 さて、これでジェラルドを仕留められるでしょうか。今回噛み千切った右腕も『奇跡』によって普通に再生していましたから、まだ分からないなというのが正直なところです。

 ところで、あの再生した右腕を見ると、これまでははっきりと見て取れた生身の肉体としての陰影が無くなっていますよね。光を放つ霊子が腕の形状を取っているように見えます。たぶん、人間の肉体を捨てて鳥の化物に変貌してしまったリジェのように、あの右腕は霊子のみで構成された非常に霊的な存在になっているんじゃないかなと思います。「神の尺度への交換」を繰り返した結果として、神に側仕えする霊的存在である「天使」へ変わりつつあるのかなと。

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。