Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第650話「THE THEATRE SUICIDE SCENE4」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週の『BLEACH』の感想です。

 

BLEACH』第650話「THE THEATRE SUICIDE SCENE4」

 首を切断されたリジェが復活します。それも元通りの姿ではなく、蛇のような長い首から人間の頭部が生え、そこに鳥の顔面を貼り付けたような異形として。もうここまで来ると完全な人外ですね。全体のフォルムとしては、ケンタウロスのような「人間の上半身と獣の下半身を持った空想上の生物」に近いものになっています。遠目には少しドラゴンっぽくも見えるでしょうか。とはいえ、頭部が鳥のものだったり4対の翼を持っていたりと、結局のところ具体的に何をモチーフにしているとも言いがたい無茶苦茶な造形です。やはり「高位の天使」特有の異形ということなのだと思います。

 死神の「罪深さ」と自らの神聖性を繰り返し語るリジェは、徹頭徹尾「神の使い」「神に選ばれた者」なんですよね。キリスト教における最後の審判では、神に選ばれなかった者の魂は地獄へ堕ちるとされていますから、つまりそういう者たちはこの上なく「罪深きものども」であるということになります。「僕は不死」「特権を与えられた神の使い」というリジェのセリフも併せて考えれば、滅却師は神に選ばれた存在であり、死神どもは地獄へ堕ちるべき罪人である」という、「最後の審判」をそのまま支持するような信念を彼が持っていることがはっきり分かります。思えば、BLEACH』とは「罪を洗い流す物語」である、というテーマのなかで、罪人は「黒(クロ)」、潔白の者は「白(シロ)」で象徴される、という話もしたことがありましたね。白い装束の滅却師と黒い装束の死神という構図は、この意味でも「天使」と「罪人」の似姿そのものだと思います。

 

 リジェの腕から発射された光線『裁きの光明』で、市街地が大きく破壊されます。『万物貫通』と同じ力なのか、はたまた滅却師の『神聖滅矢』に準ずる力なのかはわかりませんが、射線の太さによってデタラメな破壊力になっています。不死身の肉体にこの攻撃力は本当にずるいですね…。

 お花は、春水に逃げるよう諭します。あれほど念入りに敵の息の根を止めにかかる『枯松心中』ですら倒せない相手とこれ以上戦えと言うのは明らかに無茶ですし、斬魄刀であるからには持ち主の身を案じるのは道理です。個人的には、〈尸魂界篇〉の一護vs剣八戦で具象化して力を貸してくれた斬月を思い出しました。テーマ的にそれほど近いところは無いと思うんですが、シチュエーションが似てるなあという意味で。そういえばあの時の斬月(=内なるユーハバッハ)も、一護に力を与えるために「影の世界」へ導いていましたね。面白い対比です。

 お花に促されて眠りに就いた京楽を、七緒が叩き起こします。これを察知したリジェの追撃から逃れるため、京楽と七緒はリジェの下にできた「影」の中へ逃げ込みます。直前に京楽が「お狂」と名を呼んでいることから、これは『花天狂骨』の能力の一つ「影鬼」によるものと思われます。ここで登場している忍者のような姿をした少女が、アニメ版BLEACHの『斬魄刀異聞篇』に登場した『花天狂骨』のもう一人の片割れですね。お花と同じく、デザイン的にはアニメのものをそのまま逆輸入しているようです。

 

 二刀一対の斬魄刀『花天狂骨』のうちの一本は、もともとは『狂骨』という名の七緒の斬魄刀だったんですね。京楽が七緒の斬魄刀を持つようになった経緯(主に七緒が言う「母上との約束」に関して)の詳細は来週以降でなければ分かりませんが、少なくとも七緒は、マンガ本編の中で自身の斬魄刀を見せたことは一度もありません。「斬魄刀を自分の手元に所持してはいる」という程度の描写すら一切無いので、「七緒は斬魄刀を所持していない」という設定についてはかなり徹底されていたように思います。〈尸魂界篇〉のなかで七緒が最初に臨戦態勢を示したシーンでも、抜刀するのではなく手に霊圧を込めている(おそらく鬼道の予備動作を始めている)ような描写しかありませんでした。〈千年決戦篇〉でも「鬼道の才のみで副隊長に任ぜられた」と自ら語っていました(ただし京楽はこれを否定しています)から、その意味でも、彼女はそもそも斬魄刀を自分の戦力の勘定に入れていないものと考えられます。「自分の斬魄刀を他人に預けっぱなしにして、そもそも自分の戦力とすら見做していない」というのは死神としてはかなり異常な状態であるはずです(しかも七緒は仮にも隊長格の一員です)から、よほど特別な事情があるのでしょう。

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久保帯人BLEACH』13巻11頁)

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久保帯人BLEACH』62巻8頁)

 ただ、今週の最後のコマの七緒の表情を見ると、京楽の言葉に驚いているように見えます。七緒としては、京楽が自分の斬魄刀を預かっていることは承知していたが、それが『花天狂骨』の片割れであるという事実は知らなかった、ということなのかもしれません。彼女の斬魄刀について京楽と約束を交わしていたのは、七緒本人ではなくその母親らしいですし。

 

 また、京楽の斬魄刀の描写そのものについても、考えてみればかなり奇妙な点が一つあるんですよね。それは、「封印状態のままで二刀一対の状態にある」という点です。

 『花天狂骨』以外の「二刀一対の斬魄刀」としては、浮竹の『双魚理』と一護の『斬月』があります。ただ、『双魚理』『斬月』は、始解を行なうことによって初めて「二刀一対」の状態に変化するのであって、封印状態では一本の刀剣でしかありません(一護の『斬月』は「常時解放型」なので常に始解状態にあり、そのため現在は常に二刀一対になっています)。

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久保帯人BLEACH』14巻127頁)

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久保帯人BLEACH』18巻155頁)

 京楽のように「封印状態のままで二刀一対の状態にある」というのは、言い換えれば「『浅打』を二本貰っている」に等しい状況なわけで、冷静に考えてみれば明らかに異常です。このうちの一本が本来は七緒の斬魄刀だったのだとすれば、その不自然についても説明がつくかと思います。とはいえ、「他人の斬魄刀を自分のものとして使用する」ということ自体は別に不可能でもないんですよね。ルキアの死神能力を一時的に奪い取って使っていた一護(〈死神代行篇〉で一護が使用していた巨大な斬魄刀のフォルムは、鍔のデザインや純白の刀身まで含めて、封印状態の『袖白雪』と完全に一致します)や、亡き友人の斬魄刀を貰い受けて死神になった東仙など、「他人の斬魄刀を自分のものとして使用する」という描写は過去に複数存在しています。

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久保帯人BLEACH』1巻56頁)

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久保帯人BLEACH』23巻96頁)

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久保帯人BLEACH』17巻181頁)

 

 最後に、七緒の斬魄刀についての資料をもう一つだけご紹介します。

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久保帯人BLEACHイラスト集 All Colour But The Black』巻頭)

 この画像は、2006年発売の『BLEACH』イラスト集のために描き下ろされた、副隊長勢揃いイラストの一部です。十三隊の副隊長全員が、各々の斬魄刀を携えるかたちで描かれています。七緒の斬魄刀そのものが描かれた機会はこれが最初で最後だったんですが、鍔のデザインまではっきり分かるように描かれています。『花天狂骨』のそれとは全く異なるデザインになっていますが、もしかしたら『狂骨』が七緒の手に戻ることでこのデザインに戻る、なんてこともあるかもしれませんね。この辺りの要素を久保先生がどんな風に拾っていくのか、来週以降が楽しみです。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。