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『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第649話「The Theatre Suicide Scene 3」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週の『BLEACH』の感想です。

 

BLEACH』第649話「The Theatre Suicide Scene 3」

 ”断魚淵”から逃れようとするリジェですが、水面へ上っていくことは不可能なようです。覚悟を決めて心中の身投げをした者が後になって引き返すことを、この卍解は許さないんですね。やはりこの卍解は、「敵に心中を無理矢理演じさせる」というコンセプトが根底にあるようです。

 お花が京楽に呼びかけた「総蔵佐(さくらのすけ)」という名前は、京楽の名前の一部ですね。上級貴族の生まれである彼は「京楽 次郎 総蔵佐 春水」という大仰なフルネームを持っています。この名前の読み方については、かなり前に本誌の特集記事か何かで「そうぞうさ」という読み方が提示されていたはずなんですが、そちらは無しになったようです。ちなみにマンガ本編の中では、この名の「読み方」については一切言及されたことはありません。

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久保帯人BLEACH』58巻192頁)

 これは別に『BLEACH』に限ったことでもないのですが、本誌に掲載されている特集記事的なものから公式キャラクターブック・ファンブックの記述まで含めて、「文責を作者本人に帰属させてよいと言いきれない(=担当編集者などの周辺スタッフが、作者の確認を取らずに独断で書いたという可能性を否定しきれない)情報」については、基本的には信用しないほうが良いのだろうなと私は思います。今回「総蔵佐」の読み方があたかも変更されたかのように見えているのも、大元の原因には周辺スタッフの独断があるのではないかと思います。

 

 京楽の背中にもたれかかっていた女性の影は、『花天狂骨』が実体化した姿だったようです。この姿は、テレビアニメ版『BLEACH』オリジナルストーリーである『斬魄刀異聞篇』に登場したもので、マンガ本編では初登場です(アニメでは、お花ともう一人、忍者の装束を着た少女とあわせて二人一組の姿で実体化していました)。アニメではこの姿は「具象化」とは別物として扱われていたのですが、リジェには彼女の姿が見えていないらしいところを見ると、マンガのほうではこれが具象化に相当する姿だと考えて良いのかもしれませんね。正しい方法で具象化した斬魄刀の姿は、持ち主である死神以外の目には見えないようですから(浦原の「転神体」を利用した”不正な方法”の場合は他人の目にも具象化の姿が見えるようですが)。おそらくはアニメオリジナルストーリーのなかで生まれたデザインを逆輸入したということでしょう。ちょっと前には劇場版『BLEACH』に出てきた「叫谷」という設定の逆輸入もありましたし、こういうところに「最終章」っぽさというか、お祭り感みたいなものを感じますね。

 

 京楽が身に着けている女物の着物についても言及がありましたね。お花とは関係のない「他所の女の着物」だったようです。先日のわたしの予想は外れましたが、これはこれで味があるので良しです。京楽がどこへ行くにも必ず身に着けている着物ですから、彼にとってはよほど大切な、思い入れのある人物のものなのでしょう。かつての恋人か、あるいは妻がいたのかもしれません。「好きも嫌いも呑み込んで 共に散ろうと誓った仲だろ」というお花の言葉、素晴らしいですね。彼らは「敵に心中を演じさせる」ばかりでなく、自分たち死神と刀の命運も一蓮托生で、共に散る(=心中する)ものなのだと肚を決めているわけです。そんな彼らだからこそ、「死神の卍解では自分は殺せない」と主張するリジェの言葉を「未練」と切って捨てるのが最高にかっこよく見えるわけですね。

 

 『花天狂骨枯松心中』〆の段”糸切鋏血染喉”で、京楽がリジェの喉を切り裂きました。七五調による「語り」がやはり印象的ですね。「いとし喉元」「糸白し(いとしろし)」で掛詞まで作っているところが憎いです。歌舞伎や文楽の心中物では刃物を用いた心中がしばしば登場します。最も有名な「心中物」である曽根崎心中の主役・お初と徳兵衛も、その心中方法は刃物によるものですから、たぶんその辺りが元ネタになっているんでしょう。とはいえ、『曽根崎心中』のなかで手を下すのは徳兵衛の役割であって、お初が徳兵衛を殺すというわけではないのですが(そもそも女性が殺し役になるというケース自体がほぼ皆無だと思います)。

 この能力、おそらく物理的な射程距離や切れ味などは関係なく、ただ「相手の喉が斬り裂かれる」という結果をもたらすものなのだと思われます。もし物理的な干渉が必要なのであれば、『万物貫通』の持ち主であるリジェには通用しないはずですから。言ってみれば「問答無用で相手の首を斬り裂く」に等しい能力なわけで、卍解だとしてもちょっと強力すぎるくらい強力な力だと思います。総隊長に任じられるだけの力はある、といったところでしょうか。

 

 倒れ込む京楽を膝枕で受け止めてやるお花、イイですね…。彼女の特徴的な言葉遣いはいわゆる「廓詞(くるわことば)」と呼ばれるもので、江戸時代に吉原の遊女が用いた言葉です。遊女といえば「心中物」における主役女性の職業の定番ですから、この斬魄刀の姿としてはやはり大変似つかわしいものだと思います。考えてみれば、このデザインは数年前にアニメに登場したのが最初なわけですから、その時点ですでに京楽の卍解については着想が固まっていたのかもしれませんね。だとすると、久保先生からアニメ制作スタッフに「『花天狂骨』は遊女のようなデザインにしてください」みたいなオーダーが出ていたという可能性もありそうです。

 

 京楽がお花に何事かを告げようとした瞬間、喉を斬り裂かれて水底に沈んだはずのリジェに胸を撃ち抜かれました。何を言おうとしてたんでしょうね。首を切断されたままでリジェが蘇っているのを見ると、「『万物貫通』によって”糸切鋏血染喉”を無効化した(=そもそも斬られていなかった)」のではなく、「一度死んだあとで蘇った」ように見えますね。この〈千年決戦篇〉がキリスト教神話における最後の審判(キリストがこの世に再臨して、あらゆる死者をよみがえらせて裁きを行ない、永遠の生命を与えられる者と地獄に墜ちる者とに分けること)にあたるのではないかという話を以前にしましたが、リジェの「神の使いが殺せると思うな」という言葉もその線で説明できるように思います。リジェを始めとした「親衛隊」の面々は、いまこの作品世界のなかで誰よりも「神(=ユーハバッハ)に選ばれた者」であるわけですから、「永遠の生命」に近い強靭な生命力を与えられていても何ら不思議ではありません。思えば、最初に登場した『星十字騎士団』の一員であるキルゲにしても、完聖体使用時には異常なまでの生命力を見せていました。「親衛隊」に属さない滅却師らにしても、少なくとも二度目の『聖別』が行なわれるまでは間違いなく「神の使い」だったわけですし。

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久保帯人BLEACH』56巻58頁)

 

 ここから戦況はどう転ぶんでしょうか。さすがに京楽はこれ以上ない満身創痍ですから、なんらかの助太刀が入るのかなと思います。伝令から戻ってきた七緒が戦うか、今度こそ檜佐木が出てきてくれるかという辺りを個人的には期待しています。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。