深読み1 ~ユーハバッハの正体を考える~
こんばんは。ほあしです。
お久しぶりです。
今回は、これまでの記事で書いてきたような、作品そのものの描かれ方や読まれ方の分析とは少し趣を変えて、『BLEACH』の世界観というか設定というか、そういうものについてアレコレ考えてみようと思います。作中の描写を根拠として逐一提示してはいますが、主旨は筆者のきわめて個人的な妄想解釈です。
テーマは前回予告した通り、「虚・滅却師・完現術者の共通項」です。
これら三種族の能力及び生態には、ある共通項が存在します。その共通項から、筆者は〈千年血戦篇〉のキーパーソン「ユーハバッハ」についての仮説を導き出しました。今回はその仮説をご紹介しようと、こう考えているわけです。
情報の整理
まずは、虚・滅却師・完現術者の能力・生態の詳細を整理しておきましょう。
虚の生態
虚とは、死んだ人間の魂魄が中心(こころ)を失くすことで変貌した悪霊であり、魂の”渇き”を癒すために人間の魂魄を喰らう怪物です(雨竜のセリフから判断するに、生命維持のための栄養補給という意味合いもあるようです)。虚の中でも魂の”渇き”が強いものは、人間ではなく同じ虚の魂魄を喰らうようになります。そうして何百もの同族を喰らい続けた虚は、やがて”大虚(メノスグランデ)”と呼ばれる巨大な虚になります。
大虚の中には、下から「ギリアン」「アジューカス」「ヴァストローデ」という三つの階級があり、力の強いギリアンはさらに他の大虚を喰らい続けることでアジューカスへ、アジューカスはヴァストローデへと成長していきます。また、アジューカス以上の大虚には、「他の虚を喰らい続けなければギリアンへ退化してしまう」という特徴があります。
これらの特徴をまとめると、「虚とは、他人の魂魄や霊子を喰らうことで自らの力を増大させる生き物である」と言えますよね。死んだ人間の成れの果てとして誕生した「悪霊」のことを「生き物」と呼ぶのは一体どうなんだという話はありますが、他にうまい言い方も思いつかないので便宜的にこの呼び方で勘弁してください。大事なのは、「他人の魂を喰らう=自分の力が増大する」という点です。
滅却師の能力
滅却師とは、始祖ユーハバッハの血脈に生まれたことで退魔の能力を得た、人間の希少種です。自分の周囲に遍在する霊子(時には他人の魂魄そのものまで)を強制的に収束して「霊子兵装」を形成し、そこから霊子の矢や弾丸を発射することで虚と戦います(多くの場合、霊子兵装は、弓矢・ボウガン・拳銃といった飛び道具の形態を取るようです)。また、滅却師は虚に対する「抗体」を持っていないため、虚によって齎されたものは全て滅却師にとっての「毒」になります。
滅却師の戦い方の特徴をまとめると、「滅却師とは、他人の魂魄や霊子を奪うことで自らの力を増大させる種族である」とでも表現できるでしょう。「外からの力による戦い」という説明にも合致します。虚を不倶戴天の敵としていながら、しかしそのありさまは虚そっくりなんですね。これと同じ特徴を、完現術者もまた持っています。
完現術者の能力
完現術者とは、虚に襲われた人間から生まれたことで霊的な能力を得た人間です。彼らは、この世のあらゆる”物質”に宿る”魂”を引き出し、それにブーストを掛けてより大きな力を発揮させることで戦います。母体を襲った虚に由来する彼らの能力は、死神よりも虚の力に似た性質を持ちます。チャドや織姫が持つ霊的な能力も、この「完現術」にごく近いものと思われます。チャドは「自分自身の肌」、織姫は「兄の形見のヘアピン」に宿る”魂”を、それぞれ強く引き出して戦います。
完現術者の特徴をまとめると、「完現術者とは、周囲の物質の魂を使役することで自らの力を増大させる種族である」と言えるでしょう。完現術が虚の力に由来する能力である以上、そのあり方が虚の能力と似通っていることは何ら不思議ではありません。
このように、虚・滅却師・完現術者の能力は全て「他者の魂を奪って自分の力にする」という特徴を持っているのです。
ユーハバッハの霊的な能力の正体
ここで、ある疑問が浮かび上がっては来ませんか?
それは、「滅却師の能力と虚・完現術者の能力が、なぜ、こんなにも似ているのか?」という疑問です。
先程も述べたように、虚と完現術者の能力がよく似ているというのは、両者の関係から考えれば当たり前の話です。完現術者は、母体を通じて生まれる以前から虚の力をその身に受け続けているわけですから、その結果として現れる能力が虚のそれに近いことはほとんど当然の帰結と言えるでしょう。
しかし、では、虚とは何の関係もないはずの、ただ「ユーハバッハの子孫である」というだけのはずの滅却師が、なぜ虚や完現術者と酷似した能力を持っているのでしょうか?
この疑問への回答として、筆者は次のような仮説を立てました。
なぜ、滅却師と虚・完現術者の能力が酷似しているのか。
それは、「滅却師の始祖」ユーハバッハが、虚の一種だからである。
「ユーハバッハ=虚」仮説
ユーハバッハ=虚と考えれば、滅却師の能力が虚や完現術者に似ていることにも納得できるのではないでしょうか。滅却師の能力のあり方が虚に似ているのは、先祖であるユーハバッハが虚だからである、という単純な論理です。
と思われた方がほとんどだろうと思いますので、以下に詳しく説明します。
ユーハバッハの生態をよく観察してみると、実は彼が大虚(メノスグランデ)によく似た生物であるということが分かってくるのです。
ユーハバッハの生態・能力、及び虚との共通項
ユーハバッハは、元々は何の力も持たない赤ん坊でした。しかし彼には「魂を分け与える力」があり、その力を利用して周囲の人間の魂を奪うことができます。ユーハバッハの魂を分け与えられた人間が死ぬと、分け与えられた魂は、その人間が持っている全ての力を奪ってユーハバッハの許へと還って来るからです。
この「与える力」、一見すると虚や滅却師の「奪う力」とは真逆の力に見える(作中でも”滅却師とは真逆の力”と明言されている)のですが、よく考えてみれば、ユーハバッハが他人に自分の魂の欠片を「与える」のは、あくまでも最終的にそれを「奪う」ための下準備、予備動作のようなものでしかありません。単行本には未収録ですが、『BLEACH』第607話において、ユーハバッハは「この世界の全ては 私が奪い去る為にあるのだ」というセリフを口にしていたりします。
そういった描写に鑑みても、ユーハバッハという存在の本質が「奪う」という行為にあるらしいと見做すことは十分に可能だと思います。「だからこそユーハバッハの子孫である滅却師が得た能力もまた「奪う力」だったのだ」と言うこともできるでしょう。
つまり、ユーハバッハとは「他人の魂を奪い喰らうことで成長する(=自らの力を増大させる)生き物」なのです。まるで大虚そのものではありませんか。
大虚との共通項はもう一つあります。それは、上の画像にもある通り、「ユーハバッハは、他人の魂を吸収し続けなければ無力な赤ん坊に戻ってしまう」という点です。
これ、アジューカス以上の大虚が持つ「他の虚を喰らい続けなければギリアンへ退化してしまう」という特徴そのものではないでしょうか。
「他者の魂を奪うことで自らの力を増大させる」という特徴は滅却師や完現術者にもしっかりと受け継がれていますが、「奪い続けなければ退化する」という特徴は、ユーハバッハと強力な大虚だけのものです。相反する存在であるはずのユーハバッハと大虚は、実はこんなにもよく似た生き物だったのです。
そもそも、ユーハバッハは「千年前に尸魂界と戦い、封印された人物」です。それが封印から目覚め、尸魂界に逆襲するというのが〈千年血戦篇〉の大筋なのですが、当然のことながら、人間は千年も生きることなど出来ません。また、いまお話ししたような「赤ん坊に戻ってしまう」という現象も人間には起こり得ません。ユーハバッハの特徴を冷静に眺めてみれば、彼を「普通の人間の親から生まれた普通の人間」と見做すことの方がよほど無理があるように思えるのではないでしょうか。
しかし、かといってユーハバッハが「普通の虚」であるようにも見えません。普通、虚の姿を人間が見ることは出来ないのですが、ユーハバッハの周囲の人間は彼の姿を目で見ることが出来たようですから。
いまふと思いついたのですが、もしかするとユーハバッハは、「虚」と「人間」の間に生まれたイレギュラーな存在なのかもしれません。そんなものが存在しうるのかは分かりませんが、そのように考えてみると、「虚そのもののような特徴を持ちながら人間の姿をしている」という彼の特徴にもある程度納得がいくようにも思えます。
ここで「虚の全ては滅却師にとって毒になる」という設定があるのに「ユーハバッハ=虚である」というのはおかしいのではないか、という疑問があろうかと思いますが、これについては、「ユーハバッハの血を受け継ぐことで初めて虚に対する脆弱性が生じるのだ」と考えれば、一応の辻褄は合うかと思います。
ユーハバッハの血を受け継ぐと同時に「虚への抗体を持たない」という形質が発現してしまう、とでも言いましょうか。滅却師が虚への抗体を持たないのはユーハバッハの血を受け継いだ後に生じた結果であって、「もともと脆弱性を抱えていた人間が後からユーハバッハの血を受け継ぐ」のではない、という考え方です。
また、これは余談ですが、以前書いたこちらの記事で、「〈千年血戦篇〉における虚は「迫害されるユダヤ人」を象徴しているのかもしれない」ということを述べました。
『見えざる帝国』の首領であるユーハバッハの正体がもしも虚だったとしたら、ナチス関係の有名な都市伝説である「ヒトラー=ユダヤ人説」とも符合するところが見えてきますね。
「ユーハバッハ=虚」仮説の根拠は以上です。
ユーハバッハについては本当に謎が多いので、今後その詳細が語られるのを待ちましょう。
おわりに
今回のお話をまとめます。
虚・滅却師・完現術者の力のありかたを観察してみることで、「ユーハバッハ=虚の一種(虚と人間のハーフ?)」という仮説が浮かび上がりました。今後の展開が楽しみですね!
虚・滅却師・完現術者・ユーハバッハの関係を考えていて、ふと思ったことがあります。
それは、『BLEACH』世界における「人間」と「虚」って、実は非常に近い距離にあるものなんじゃないか? ということです。
というのも、『BLEACH』の世界では、どんな人間であっても、死んで肉体から魂魄が離れたまま放置されれば、ただそれだけで自動的に虚に変貌してしまうからです。それを未然に防ぐために死神という職業が存在し、そのおかげで人間の虚化とそれによる被害が抑えられているわけですが、人間の魂魄をあるがままに任せてみれば、「人間」と「虚」というのはほとんど等号で結ぶことすら可能なのではないか、と思うのです。
つまり、『BLEACH』世界では、「少なくとも虚の力だけは、最初から全ての人間の魂魄に内在しているのだ」という考え方ができるのではないでしょうか。どんな人間でも、ただ死ぬだけで虚になることが出来るのですから。
であるならば、滅却師や完現術者といった「霊的な能力を持つ人間」とは、「魂に内在する虚の力をうまく引き出している人間」であると考えることが出来ます。そしてそんなことができるのは、彼らの親や先祖が虚の力を強く受けているからではないか、とも。
この考え方は「ユーハバッハ=虚」仮説にも合致するように思います。ユーハバッハは虚である。ゆえに、その子孫たちの「魂に内在する虚の力」は普通の人間よりも強くなっている。ゆえに、その子孫たちは滅却師として「虚によく似た能力」を使うことが出来るのだ、という具合に。完現術者についても同様の論理が成立します。
こんな感じで、「ユーハバッハ=虚」仮説は、『BLEACH』世界の法則と意外にもよく馴染んでいるように思えるのです。手前味噌ですが。
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。
次回のテーマは未定ですが、早めの更新を心がけます。
それでは。