Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

作品論4 ~『BLEACH』という題名の意味~

こんばんは。ほあしです。

本記事から2~3回にわたって、『BLEACH』というタイトルに込められた意味づけについてお話しします。

作品中に「ブリーチ」という言葉自体がほとんど登場しておらず、またこの単語と明らかに関連があると誰もが判断できるような分かりやすい描写がほとんど為されていないにも関わらず、なぜこの作品には『BLEACH』という題名が冠されているのか。物語を丁寧に読解していけば、その答えが見えてきます。

筆者が今回提示しようと考えている「意味づけ」は、以下の2点です。

  1. 「罪を洗い流す物語」としての『BLEACH
  2. 「白色人種と有色人種の戦いを戯画化した物語」としての『BLEACH

これだけでは何が何やら分からないと思いますが、ひとまず本記事では1についてのみお話しします。2については次回以降に。

例によって作品中の描写を元にして考えていきましょう。

 

"bleach"という語そのものの意味

まずは、"bleach"という英単語の持つ意味を確認しておきましょう。

オックスフォード英英辞典のオンライン版によれば、"bleach"という語の意味は

to become white or pale by a chemical process or by the effect of light from the sun; to make something white or pale in this way

このように記述されています。

和訳すると、「化学的な手順、あるいは太陽の光の影響によって、物体の色が白くなったり薄くなったりすること。また、こうした方法によって物体の色を白くしたり薄くしたりすること」といったところでしょうか。前半は名詞としての意味、後半は動詞としての意味を説明したものになっていますが、いずれにせよ、「有色のものが白くなること」という意味合いは変わらないようです。毛髪の脱色剤が「ブリーチ液」と呼ばれるのもここからですね。

 なぜこの言葉が作品のタイトルになっているのでしょうか。

 

「罪を洗い流す物語」としての『BLEACH

〈現世篇〉

BLEACH』の物語の序盤、いわゆる〈現世篇〉では、ルキアに代わって一護が死神業務を行ない、虚との戦いを繰り広げています。その中で、ルキア一護にこんな話をしています。

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久保帯人BLEACH』1巻160頁)

「死神が虚を斬る」というのは、ただ虚と戦って撃滅することではなく、「その虚の犯した罪を洗い流してやること」なのだとルキアは言います。そうすることで、虚に身を堕とした魂が尸魂界へ行けるようになる、とも。

 主に警察関係者が使用することで有名な隠語として、ある事件の被疑者・容疑者のことを黒(クロ)、嫌疑がかかっていない者・潔白な者のことを白(シロ)と呼ぶことがありますよね。日本の現代語においてはほとんど常識と言っていいレベルにまで浸透した語彙だと思います。

これに限らず、「白い色は善良なもの・神聖なもの・気高いもの・光を象徴する」とされ、逆に「黒い色は俗悪なもの・邪悪なもの・卑賤なもの・闇を象徴する」とされる価値観は、私たちの生活において大変馴染み深いものでしょう。

ルキアが述べた死神の仕事を、こうした「色彩の象徴的意味」に照らして考えてみると、”bleach”という単語に繋がる部分が見えて来ます。

つまり、死神は虚を斬ることによって、虚(=クロ)の犯した罪を洗い流し、普通の魂(=シロ)に戻してやっているのだと表現できるはずです。虚へ堕ちてしまった魂魄の「漂白(=bleach)」を行なう者として死神がいるというわけです。

虚との戦いをオムニバス形式で描いた〈現世篇〉は、このような意味で”bleach”という言葉に沿った内容になっているのだと思います。

そして、 この「罪を洗い流す物語」という構造は、『BLEACH』の全てのエピソードに見られるのです。

順番に見ていきましょう。

 

〈尸魂界篇〉

ルキアが重犯罪者として処刑されることになった〈尸魂界篇〉の目標は、「犯罪者だと思われているルキアの身の潔白を証明すること」です。

ルキアが尸魂界へ連行された当初の罪状は「霊力の無断貸与及び喪失」と「滞外超過」でしたが、これらがいずれも藍染惣右介と浦原喜助の陰謀によってもたらされた状況であり、またルキア処刑の判断を下した「中央四十六室」が予てから藍染の手中にあったということが、藍染惣右介本人の証言によって暴露されました。

ルキアは、藍染の采配によって一護へ霊力を与えるよう仕向けられ、また浦原の義骸によって「崩玉の隠し場所」として行方不明になるよう仕向けられ、それが原因で濡れ衣を着せられて処刑までされようとしていた、本事件最大の被害者でした。

〈尸魂界篇〉における物語のゴールとして強調されているフレーズは「ルキアを救出すること」ですが、身の潔白を証明して自由の身にしてやるということも当然その一環と考えて良いでしょう。

ですから、〈尸魂界篇〉とは、「犯罪者(=クロ)だと思われているルキアの身の潔白(=シロ)を証明する」ための物語であると言えるのです。この意味で、やはり”bleach”という言葉に沿った内容だと言えるでしょう。

 

破面篇〉

破面篇〉にもこれらと同様の構造が見られます。

一護たちが虚圏へ乗り込むことを決断したそもそもの理由は「拐取された織姫の救出」だったわけですが、そのなかには、「裏切り者だと思われている織姫の身の潔白を証明する」という目標も含まれていました。

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 (久保帯人BLEACH』27巻97頁)

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久保帯人BLEACH』28巻140頁)

このように、織姫は自らの意志による裏切りに見せかける形で藍染の手に落ちました。実際にはウルキオラの実力行使によって無理矢理連行されたのですが、尸魂界側がその事実に気付かなかった(あるいは織姫が無実であると信じられるほどの根拠を持っていなかった)ため、一護たちは独力で織姫救出に向かうわけです。一護は幾つかの戦いを経て無事に織姫を救出し、裏切りの嫌疑がやはり濡れ衣であったということを知ることになります。

〈尸魂界篇〉の構造に大変よく似ていますよね。どちらも「濡れ衣を着せられて拐取された人物を救出し、その無実を明らかにする」という筋書きです。これもまた、「裏切り者(=クロ)だと思われている織姫の身の潔白(=シロ)を証明する」ための物語として捉えられると思います。

 

〈死神代行消失篇〉

〈死神代行消失篇〉で”bleach”されている人物は、黒崎一護です。

〈死神代行消失篇〉では、かつて一護に与えられた「死神代行戦闘許可証」の真の役割が暴露されます。それは代行戦闘を許可するためのものではなく、死神代行の霊力を秘密裡に監視・制御するために持たされるものでした。

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久保帯人BLEACH』54巻100,103頁)

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久保帯人BLEACH』54巻134頁)

ここで銀城や日番谷が語っている「代行証の真実」は概ね事実であり、監視と制御、及びその目的について、少なくとも隊長格レベルの死神は把握していたようです。尸魂界は一護のことを、いつ銀城空吾のように裏切るか分からない不穏分子と考え、利用価値が無くなれば殺害しようと計画していたわけですね。

しかし、です。

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久保帯人BLEACH』54巻135頁)

一護がこれまでの戦いで身を以て証明してきた「あくまでも仲間を護るために戦う」という決意に、尸魂界が揺らいだのです。尸魂界は当初の目的であった「銀城空吾の捜索」を達成したにもかかわらず一護を殺害せず、それどころか霊力回復の手助けさえします。一護は自らの行ないによって尸魂界の信頼を勝ち取ったわけです。

これを、「裏切り者(=クロ)になるだろうと目されていた死神代行・黒崎一護が、尸魂界にとって本当に信頼できる仲間(=シロ)であると認められた」と読むことは十分可能だと思います。不穏分子としての嫌疑を晴らしたわけですから、「犯罪被疑者(=クロ)の立場から潔白の身(=シロ)になった」という言い方はピッタリでしょう。

 

〈千年血戦篇〉

これについてはそもそも完結すらしていないので迂闊なことは言えないのですが、2014年11月現在、一護の仲間であったはずの石田雨竜が、滅却師の軍勢『見えざる帝国』に合流し、敵の配下にありますね。彼がどのような意図・目的で『見えざる帝国』に加わったのか、雨竜自身の言葉では現時点で全く説明されていません(ある滅却師による勘繰りのようなかたちでその意図を問い質されたシーンはありましたが、それについて雨竜は否定も肯定もしていません)。

しかしながら、戦地で敵として一護と相見えた雨竜は、一護の身の安全を図るかのような言葉を口にしてもいます。帝国の目的に心底から賛同しているようには見受けられません。

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久保帯人BLEACH』65巻111頁)

しかもこの後、一護は雨竜を帝国から連れ戻すことを決心していますから、やはり〈尸魂界篇〉や〈破面篇〉と同じように、「何らかの理由があって裏切り(のように見える行為)を行なった仲間を救出し、その無実を証明する」という流れになるのではないかと筆者は考えています。しかしこれはただの推量ですから、もし外れてしまったら盛大に笑ってやってください。

 

おわりに

ともあれ、「罪を洗い流す物語」という言葉の意味が、これでご理解いただけたでしょうか。

もちろん、”bleach”という英単語の語義に「潔白を証明する」などという意味はびた一文含まれていません。それは最初に確認した通りです。「クロだったものをシロに変える」という日本語の寓意として、”bleach(漂白する)”という単語がいわゆる「洒落」として使われているにすぎません。

しかしながら、『BLEACH』という題名については「なぜこんな題名になっているのか分からない。一体どういう意味があるの?」という疑問が長らく付きまとっていました。そうした疑問に対する回答の一端として受け取っていただければ幸いです。

 

第2の項目については次回以降の記事でお話しします。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

それでは。