Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第684話「The Blade」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週のBLEACHの感想です。

 

BLEACH』第684話「The Blade」

 先週のつづきから。一護はユーハバッハの胸に刃を突き立て、そのまま斬り払います。先週の最後のコマでは上半身を吹き飛ばしたように見えたんですが、あれは単に霊圧の炸裂がそういう感じに見えていただけのようですね。これによってユーハバッハの肉体は黒い霊圧の塊に変じ、そのまま倒れます。こういういかにも人間にあるまじき異常な死に様を見ると、やはりユーハバッハは真っ当な人間ではないんだろうなという思いがさらに強くなりますね。まあ〈千年血戦篇〉に登場した滅却師は肉体の変身くらい朝飯前って感じでバンバン披露してたわけなんですが、ユーハバッハの場合は「霊王の力の奔流」にたいへんよく似た姿になっているので、なんというか人間よりは霊王とか神とかに近い性質を具えているんだろうなと、そういう意味なんですが。

 というか、そもそもユーハバッハの正体が「霊王の力の奔流からこぼれ落ちた一欠片の赤ん坊」だったとか、そういう話だったりするんですかね。霊王の力の欠片がどこかの人間に宿って、その人間から生まれたのがユーハバッハだった、みたいな。それならユーハバッハが霊王を「父」と呼ぶのも頷ける話ですし、ペルニダやジェラルドのような「霊王の一部」がユーハバッハに従っていたのもまあ当然の帰結だったのかなとか。

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久保帯人BLEACH』68巻174~175頁)

 

 今週のタイトルは「The Blade」です。普通に「刀」と捉えておけば過不足はないでしょう。最後に再び姿を表した旧『斬月』に言及したものですね。二刀一対の斬魄刀として打ち直された『斬月』なんですが、卍解によって再び一本の刀になり、その装甲が剥がれた奥に昔の姿がそのまま残っていた、という構造になっています。結局この巨大な包丁のような形態こそが『斬月』の真の姿だったということなんでしょうか。虚と滅却師と死神の力を二刀に分けるのではなく、一本の斬魄刀にまとめた(=すべての白と黒が入り混じっている)状態こそがこの刀のあるべき姿なのだ、みたいな。

 

 藍染が一護に声をかけ、彼の咄嗟の立ち回りを評価しています。前もって『鏡花水月』の気配を感じていたとはいえ、完全催眠を利用した連携は一護と恋次にとって完全に出たとこ勝負だったはずですし、そもそもあの藍染惣右介に戦術の要を預けることにもなるわけですから、なんというか土壇場のクソ度胸にしても肝の据わり方が半端じゃないなと思います。とはいえ、一護はかつて藍染と戦ったときに彼の「孤独」を肌身で感じて一定の理解を示したこともありましたから、ほかの死神が藍染に対して抱くほどの警戒心や抵抗感はなかったのかもしれませんね。

 一護に語りかけている藍染の微妙に誇らしげで嬉しそうな顔といい、彼らの間には奇妙な絆のようなものが生じているようにも見えます。それはずっと「孤独」だった藍染にとっては特に得難いものであるはずですから、彼がこういう表情をしているのも納得だなと思います。

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久保帯人BLEACH』48巻185頁)

 

 また、「ユーハバッハはいつ『鏡花水月』の始解をその目で見た(=完全催眠の発動条件を満たしてしまった)のか」という疑問が先週の時点で生じていたようなので、ここで私の見解をお話ししておきます。

 まず、「時系列のうえで具体的にいつ頃のことなのか」というのは分かりません。それを推量するだけの情報がないので。ただ、ユーハバッハがそれを目撃するに至った経緯については容易に説明できると思います。一言でいえば滅却師たちが護廷十三隊の情報を集める過程で『鏡花水月』解放の瞬間を捉えていて、それをユーハバッハは見た」という感じです。『見えざる帝国』の滅却師たちは千年前から瀞霊廷の"影"に潜んでいましたから、護廷十三隊に関する情報収集には余念がなかったはずです。リジェがその旨を明言していましたし。

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久保帯人BLEACH』71巻56頁)

 ここでポイントになるのが「『鏡花水月』の完全催眠は、その発動条件を相手に教えてやる必要がない」「ユーハバッハはごく最近まで『全知全能』による未来視を封印していた」という2点です。

 『鏡花水月』は、「解放の瞬間を見せたことのある相手すべて」を完全催眠の虜にします。ただ解放の瞬間を相手に見せるだけで条件が満たされるため、「実はこれは完全催眠の儀式なんだよ」とか種明かししてあげる必要は全く無いわけです。その能力の概要を事前に知っていなければ警戒することすら不可能な、いわば「ハメ技」そのものなんですね。

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久保帯人BLEACH』20巻69~71頁)

 これ、せっせと情報収集していたであろう滅却師たちにしてみれば堪ったものではなかったはずです。藍染は『鏡花水月』を「流水系の斬魄刀」「霧と水流の乱反射で敵を撹乱して同士討ちさせる能力」だと吹聴し、死神たちをも長年にわたって欺き続けていました。真の能力を種明かしされた時には手遅れという寸法です。

 そして、ユーハバッハはごく最近(=霊王宮に攻め入ったとき)まで『全知全能』の眼を瞑じていました。ハッシュヴァルト曰く「"力の9年"が終わらぬ内に眼を開けば 陛下の"A"の力は制御を失い 我々星十字騎士団の力を奪い尽くしてしまうかも知れなかったから」とのことですから、そもそも彼が『全知全能』の力を取り戻したのがほんの9年前のことだったわけです。

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久保帯人BLEACH』67巻153~154頁)

 藍染護廷十三隊隊長の座に就いたのが100年以上前のことですから、死神としてのキャリアを歩み始めたのは当然それよりもさらに昔のことです。つまり、藍染が死神になった当時のユーハバッハには『全知全能』による未来視の力がそもそも戻っていなかったんですね。というか、『聖帝頌歌』でいうところの"鼓動の900年"すらまだ終わっていなかったわけですから、未来を視通して『完全催眠』に対する警戒や対策を講じるなんてことは出来るわけがありません。1年半ほど前の藍染の叛乱の折に種明かしを聞いたときにはすでに手遅れだったということですね。

 ユーハバッハが完全催眠の発動条件を満たしていた理由については、こういう説明が可能だと思います。

 

 藍染がさらに言葉を続けようとしたところでユーハバッハが再び動き始めます。『鏡花水月』が解かれたことでユーハバッハの未来視が正常に機能するようになり、「"自分が死ぬという未来"を改変する」というのが可能になったためでしょう。藍染があっという間に黒い霊圧に呑まれ、一護もほとんど為す術がありません。このくだりで黒い霊圧の中から立ち上がって不敵に笑いかけてくるユーハバッハがハチャメチャに格好良くて最高です。

 遮魂膜に覆われた瀞霊廷全体をほぼ覆い尽くして突き破り、その外部にまで黒い霊圧の奔流が拡がっています。瀞霊廷のみならず尸魂界全土にその力が及んでいるようです。ここでユーハバッハが非常に意味ありげな言葉を口にしていますね。「現世も尸魂界も 我が力の前に形を失い一つになる!!」と。

 これ、つまりはこういうことなんじゃないのかとやっぱり思うわけですよ。

 現世と尸魂界の境界が消滅することで、世界は「生と死の入り混じる渾沌」となる。ユーハバッハが生み出そうとしている「真の世界」とは、やはりこれなんじゃないかと。生者の世界であるところの現世と、死者の世界であるところの尸魂界とが「一つになる」と今回ユーハバッハは言っているんですから、この線でわりと間違いないんじゃないかなと思います。まあ種明かし待ちですが。

 

 ここで雨竜がユーハバッハの背後から「銀の鏃」を使った矢を放ちます。「宗弦から聞いた話だ」で始まっている一連のモノローグは、おそらく竜弦のセリフを雨竜が思い返しているという感じなんでしょう。少なくとも雨竜が小さかった頃の竜弦は宗弦のことを「祖父さん(とうさん)」と呼んでいたはずですが、雨竜との親子関係が悪化しているなどの理由から少し距離をおいたような物言いになっているのかなと思います。「とうさん」とか「おじいちゃん」とかの言い方だと、どうしても自分たちが家族である、父と息子であるというところが強調されますから、現在の非常に険悪な親子関係のなかでそのあたりを意識させられてしまうことのむず痒さを避けたのかなーみたいな。だとしたら竜弦も相当かわいいやつというか、いい年したオッサンが息子相手に何を照れくさがっとるんじゃみたいな話にもなりますが。

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久保帯人BLEACH』15巻12頁)

 また、聖別を受けた滅却師を殺す銀の血栓について、ここで「静止の銀」という呼び名が登場しているのも非常に気になります。「静止」といえば、霊王の権能を表す言葉の一つですからね。

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久保帯人BLEACH』70巻120頁)

 若かりし頃の涅が読んだ書物に曰く「霊王の右手は"静止" 左手は"前進"を司る」そうです。おそらくこれは魂魄運行の安定化のための機能だと思われるのですが、いずれにしろ、ユーハバッハが『聖別』で自らの眷属の魂を奪うときには、霊王の権能と同じ性質の力を使っていたらしいことが分かります。霊王とユーハバッハ、やはり相当似通った存在である可能性があるように見えますね。

 

 銀の鏃の効果でユーハバッハの力を「静止」させたところで、雨竜は一護に最後の止めを託します。斬りかかる一護と、それを手で受け止めるユーハバッハ。『天鎖斬月』の装甲がすべて砕け散って、そこには昔の『斬月』の姿が現れます。夜が明ける直前にユーハバッハが見ていた「悪夢」の光景がフラッシュバックし、あれが実は夢ではなく、自らの未来視によるものだったのだということを悟ります。

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久保帯人BLEACH』73巻157~159頁)

 藍染の完全催眠が有効であるというところでも少し思ったことですが、『全知全能』による未来視って、どうやら本当に視覚的なビジョンとして「普通に目で見ている」という感じみたいですね。単なる夢と誤認してしまうほどですし。

 また、ユーハバッハがこの未来視の光景を「お前が見せた夢だと思っていたよ ハッシュヴァルト」とも述べていますが、これはたぶん、この夢を見る直前まで『全知全能』をハッシュヴァルトに預けていたことに起因しているのでしょう。ハッシュヴァルトに力を預けて眠っているときのユーハバッハは未来を視ることが出来ないわけですから、そのときに何らかのビジョンが視えたとしたらそれは未来ではなく夢である、という話です。「お前が見せた」という部分は、ハッシュヴァルトが力を預かってくれるおかげで自分は夢を見ることが出来る、という意味で言っているのかなと。

 いずれにしても、こうして一護は今度こそユーハバッハを両断します。これで決着となるんでしょうか。本誌の次号予告によれば、来週号はBLEACHがセンターカラーを貰っているらしく、しかも単行本74巻に収録される話数がちょうど埋まるタイミングなんですよね。完結するにしても何らかのかたちで続くにしても、とにかくそこで一区切りがつくこと自体は間違いないと思います。個人的には、様々な謎が語られないまま駆け足で終わるとはちょっと思えないので、「何か」あるんじゃないかなと思っているんですが。まあこれについては来週を待つほかありません。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。