Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第678話「The Future Black」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週のBLEACHの感想です。

 

BLEACH』第678話「The Future Black」

 先週の続きから。一護がこれまでに味わい、そして乗り越えてきた絶望の数々がフラッシュバックしています。尸魂界への叛旗を翻した藍染に敗れた瞬間、崩玉と融合した藍染の霊圧の異常さを知覚できてしまっていることを市丸に指摘された瞬間、修行の末に手に入れた完現術を銀城に奪われた瞬間、自分の斬魄刀『斬月』が実は内なる虚そのものだったことを知らされた瞬間など、たしかに絶望と呼ぶに相応しいシーンが並んでいます。ただ、右下に配置されているコマだけはどこのシーンのものだったかどうしても思い出せません・・・。コマそのものにはものすごく見覚えがあるんですが、どういう流れだったか・・・。まあ思い出したらまた追記でもします。

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久保帯人BLEACH』20巻223頁)

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久保帯人BLEACH』47巻35~36頁)

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久保帯人BLEACH』52巻168~169頁)

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久保帯人BLEACH』61巻16頁)

【2016年6月20日20時03分追記】

 どのシーンかわからなかったコマの詳細について、Twitterで教えていただけました。〈破面篇〉の終盤で、藍染を倒せるかどうか一心と口論しているシーンだったようです。内容的には、市丸の言葉に絶望して項垂れているシーンとほぼ地続きにあるものですね。

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久保帯人BLEACH』47巻53頁)

【追記ここまで】

 そして、現世に長く滞在しすぎたルキアを連れ戻しに来た白哉恋次に敗れ、しかもルキアに庇ってもらうことでなんとか命を永らえたシーンと、母・真咲が自分を守って死んだシーンにはそれぞれまるまる一コマ費やされていますね。これらの体験がより強烈な絶望として記憶されているらしいということが分かります。

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久保帯人BLEACH』7巻85頁)

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久保帯人BLEACH』3巻58頁)

 

 今週のタイトルは「The Future Black」です。今週の内容に照らして意訳するとすれば「暗黒の未来」とか「黒く染まる未来」とかそれくらいのニュアンスになるでしょうか。しかし、こういう意味合いだとすれば語順が"black future"ではないというのがちょっと気になってきます。そこで"future black"でGoogle検索をかけてみたところ、オーストラリアの建築デザインに関する同名の個人ブログが見つかりました。久保先生は建築やインテリアなどのデザインに非常に強い関心を持っていらっしゃるそうですから、もしかしたら今回のタイトルはそのブログ名に引っ掛けたのかもしれないなと思いつつ、しかしまあ実際のところはちょっと分からないですね。

 

 一護が卍解する瞬間、二本の刀を重ねあわせていますね。まさに「白と黒の宥和」そのものといえるのではないでしょうか。そうして現れた新しい『天鎖斬月』も、これまでのような黒一色の刀身から、白と黒がほどほどに混ざり合った色調へ変化しています。一護の力のあり方が確実に変化していることを感じさせるものではあるんですが、しかし、この卍解が一護の力の完成形だとはどうしても思えないんですよね。

 というのも、一護の力は「纏うもの」だったはずだからです。現在の一護は、卍解を解放したにもかかわらず死覇装が全く変化していません。まだ何か隠れている力があるとしか思えないんですよ。まあ具体的に言えばそれは「滅却師としての力」だと思うんですが。現状の一護はまだ滅却師要素を全く見せてませんし。

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久保帯人BLEACH』51巻70頁)

 それに、こうした物語内部の事情から離れてメタ作品的な視点から見ても、これが一護の最終的なデザインだというのは少し信じがたいんですよね。だってこれ、BLEACHですよ? あの久保帯人先生の作品ですよ? 主人公の最終的な戦闘スタイルがこんなに素朴で変化の少ない卍解でお終いだなんて、ありえないことだと思いませんか。キャラクターデザインや演出のセンスについて久保先生の実力をいまさら疑う人はいないでしょう。おそらくですが、今回披露された『天鎖斬月』のデザインは、後々大きくリニューアルされることを前提にしたものなんじゃないかと思います。〈死神代行消失篇〉における一護の完現術みたいな。

 

 こうしてせっかく解放した卍解でしたが、次の瞬間には真っ二つに折られてしまいました。しかもその直後に虚のツノまで根本から折られてしまっています。一護の虚化はツノを折ることで解除されるらしいという描写はこれまでにもありましたから、それを踏まえての行動でしょうね。実際、『天鎖斬月』を折られたことに一護が気づいた瞬間から虚化による左眼の黒ずみが薄くなっていますから、この時点ですでにツノを折られ、虚化を解除させられていたのだということが分かります。

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久保帯人BLEACH』41巻66~67頁)

 考えてみれば、こうして一護が卍解を破壊された」という時点で、このまま最終決戦へという流れはかなり難しくなったと言えるのではないでしょうか。卍解を破壊されたら『浅打』から打ち直すしかありませんからね。もし一護がこのまま戦闘を続行できるとすれば、卍解以外の戦術がある」「この場で卍解を修復できる」というくらいしか道が無さそうです。

 ただ、一護の斬魄刀の半分は「滅却師の力」である、という事実を念頭に置いて考えると、「卍解を修復する」というのもあながち不可能ではないかもしれないとは思います。

 というのも、『斬月』の半分が滅却師の力から出来ているのなら、滅却師が用いる「霊子兵装」に似た性質を『斬月』が持っていてもおかしくないんですよね。で、滅却師が扱う霊子兵装というのは、どんなに破壊されても変形や修復が可能です。なんといっても霊子の塊ですから。だとすれば、現在の一護の斬魄刀「たとえ卍解状態で破壊されても霊子兵装のように修復が効く」という特性を帯びていても不思議ではないと思うんですよ。ユーハバッハは一護の卍解を折ったことでもはや脅威は去ったと考えているようですが、その目の前で卍解が修復され始めたら、これは結構な衝撃になるのではないでしょうか。それこそユーハバッハが恐れた「あらゆるものの融合」「未知数の"潜在能力"」の顕現そのものですよね。

 もちろん、ここで一旦撤退して態勢を立て直すという流れも十分ありえますし、卍解に代わる戦術として「滅却師最終形態」とかそのあたりの技を捨て身で用いるみたいなことも可能性としてはありうるかなと思います(というか〈破面篇〉で披露された「最後の月牙天衝」がまさに「滅却師最終形態」の変種だったんじゃないかなと個人的には思ってるんですが)。とにかくさまざまな戦局のパターンが考えられそうですね。

 

 そしてついに『全知全能』の神髄が明かされます。「『全知全能』は"未来を視る"力では無い "未来を改変する"力だ」とのことですが、こういうことであれば、ユーハバッハの徹底した決定論的思考も頷けますね。ユーハバッハの言葉が事実であるならば、彼は誇張でも何でもなく「自らの思い通りに未来を変えることができる」のですから。本当に神そのものです。

 それにしてもこの流れ、先週分とあわせて読んでみるとユーハバッハの悪辣さが本当によく分かりますね。「未来は変えられる」ということを「"希望"に満ちた素晴らしい事実」などと言っておきながら、実は未来を本当に思い通りに変えられるのはユーハバッハだけなのだと宣言しているわけですから、「一度わざと希望をチラつかせてからそれを取り上げる」という最悪のやり口になっています。

 あと、アニメとかマンガとかにおける「未来は変えられる」というフレーズって、基本的には主人公陣営が大好きなフレーズというか、それこそ「希望」を伴ったニュアンスで発せられることがほとんどだと思うんですが、こういう概念をよりによってラスボス固有の特殊能力にしてしまうというのがすごく皮肉っぽくて面白いなと思います。これについては、久保先生は結構自覚的にやってるんじゃないかと思うんですよね。一護という主人公について「いつまでも変わらない」という性質をことさら強調し、そのために「成長した」という(一般的には肯定的と見なされている)評価をわざわざ否定して見せているくらいですから、 いわゆる少年マンガのお約束的なキャラ表現・キャラ描写についてはかなり意図的に退けようとしている節があります。

 

 武器を折られ、完全無敵の能力も開帳されて、いよいよもって追い詰められた感のある一護ですが、今までの描写の積み重ねから考えれば、まあ勝機は無くもないというか、多少抵抗できるというくらいのアレはあるんじゃないかと思います。

 ユーハバッハの『全知全能』は、いわば「世界を変える力」そのものなんですよね。ユーハバッハが視えているらしい無数の可能性の「砂粒」のうち、どんなものが眼前に現れたとしても、彼はその未来を捻じ曲げて自らの望むように変化させてしまえるわけです。つまるところ「世界のあり方そのものを望むかたちに変えてしまう能力」に他なりません。

 しかし、先日もお話ししたとおり、一護もまた「世界を変える人」になりそうなノリがあるんですよね(詳しくはこちらの記事を参照)。ユーハバッハの『全知全能』とはまた違ったアプローチによって「世界を変える」ことが一護にもできるのならば、真っ向から対抗しうる可能性はそこそこあるんじゃないかなと思います。

 しかも、一護が周囲のあり方を変えてしまうのは、常に「いつまでも変わらない」という特質の裏返しとしてなんですよね。〈尸魂界篇〉で白哉が囚われていた掟への盲従を砕いたり、〈死神代行消失篇〉で死神代行に対する尸魂界の意向を変えさせたりというふうに、一護は、「仲間を護って戦う」という信念を抱いて「いつまでも変わらない」がゆえに、周りの世界を変えてしまうんです。だからこそ「そう 何ものも わたしの世界を 変えられはしない」わけですし、「変わらぬものは 心だと 言えるのならば それが強さ」なんです。一護が一護であるかぎり、必ずや彼はユーハバッハの創ろうとする「暗黒の未来」を破壊し、勝利するだろうと私は思います。

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久保帯人BLEACH』19巻巻頭)

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久保帯人BLEACH』54巻巻頭)

 思えば、「いつまでも変わらない」「後から成長するまでもなく人格が最初からほとんど完成されている」という性質からして、いわゆる「神」と呼ばれる存在にかなり近いニュアンスがあるんですよね。「神は元より完全な存在であり、完全であるがゆえに成長や改善の余地はない」というのは、全能の神というものを想定するにあたって非常にポピュラーな考え方です。この辺の話についてはマユリとザエルアポロの問答も参考になるでしょう。そういえば彼らの問答にも「絶望」というキーワードが出てきていましたね。やはりある程度接続して考えることができるのかもしれませんね。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。