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『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第677話「Horn of Salvation 2」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週のBLEACHの感想です。

 

BLEACH』第677話「Horn of Salvation 2」

 先週の続きから。『月牙天衝』と融合した『王虚の閃光』の直撃を受けたユーハバッハが、一護の力を褒め称えていますね。「あらゆるものの融合によって生まれたお前に相応しい力だ」と。ここでいう「あらゆるもの」とは当然、「人間・死神・虚・滅却師・完現術者」という、これまで『BLEACH』に登場したすべての霊的な能力・資質のことを指しているはずです。これらを指して「あらゆるもの」と表現しているということは、やはり一護には「全能者」としての側面があるものと考えるべきでしょう。

 一護の放った月牙をユーハバッハは素手で掴んで食い止めます。『全知全能』の未来視による攻撃の無効化が働いていない状態であっても、ユーハバッハの力はそれほど強大なんでしょうね。

 しかし、ユーハバッハはここで『全知全能』を解放するようです。「油断する余地も無い」とまで言っていますから、一護の力に対してそれなりの危機感を抱いているらしいことが分かりますね。少なくとも「油断して力を出し惜しみしたら負けるかもしれない」くらいには思っていそうです。一護、さすがは「未知数の"潜在能力"」といったところでしょうか。ここ最近、ユーハバッハは一護のことを本当に褒めっぱなしですからね。

 それにしても、ユーハバッハが『全知全能』を解放する瞬間の流れ、めっちゃ格好良いですよね。「自分を倒せるのは今この瞬間しかないぞ、今なら出来るかもしれないぞ」などと一頻り希望を煽ってからの「そしてその瞬間は今終わった!!」でひっくり返すという一連の流れ、本当に性格が悪くて最高です。「"希望"を捨てないでくれ」とかどの口で言ってるんだお前はという感じですよね。

 

 『全知全能』を解放したユーハバッハは、一護の足の置き場を先読みしたかのようにピンポイントで罠を張り巡らせているようです。この戦い方、〈死神代行消失篇〉で月島が白哉に対して取った作戦に似ていますよね。月島が用いる”栞”の完現術『ブック・オブ・ジ・エンド』の能力は、「斬った相手の過去に自分の存在を挟み込む」というものでした。平たく言えば「過去を変える力」です。ユーハバッハの「未来を視通す力」と比較するとコンセプト的にはほぼ正反対なんですが、時間に関わる能力によって物事の結果を捻じ曲げるという戦い方はたしかに神様めいたものがありますよね。

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久保帯人BLEACH』53巻185頁)

 

 『全知全能』によって視える未来が実のところどういうものなのか、というのをユーハバッハが語っていますが、これ、本当にずるい能力ですよね。彼の言葉をまとめると「未来に起きうる全ての可能性が視える」という話なわけで、「ユーハバッハが視ていない別の未来」などというものはそもそも存在しないらしいということになります。「私はその砂粒の全てを遥か高みから眺める事ができる」というのはつまりそういうことでしょう。どんなに奇抜で思いがけない手を打ったとしてもそれは「ユーハバッハが視た無数の未来のなかの一つ」ということにしかならないわけですから、打つ手が無いとしか思えません・・・。

 ここで思い出しておきたいのが、前々回の冒頭で雨竜が「君の視る未来は変化するだろう?」と問うたのに対して、ハッシュヴァルトが「私の使う陛下の御力は所詮は借りもの だが陛下は違う」と回答していたことです。あれは「視ることのできる砂粒の数」について言っていたのだろうと思います。つまり、ユーハバッハとハッシュヴァルトとでは、『全知全能』によって視ることのできる未来のパターン数が違うわけです。ハッシュヴァルトには全ての砂粒を視ることはできない(だから”未来が変化する”という事態が起きうる)が、ユーハバッハには全ての砂粒が視える、ゆえにユーハバッハは完全に無敵である、ということだったのでしょう。

 しかし、こんな完全無欠の力を持っているはずのユーハバッハなんですが、そのわりに彼は一護のことを「未知数の"潜在能力"」の持ち主と見なしていて、雨竜についても「私の力を超える何かがある」と考えているらしいんですよね。自分の力を超えてしまう何者かが現れることに対して、それなりの危機感を持っているようなんです。ということはこの能力にも何か隙があるのだろうと思うんですが、ちょっと今は思いつかないですね・・・。

 

 また、「未来」「希望」という二つのキーワードが絡めて語られているのがすごく気になりました。

 これらのキーワードについては「喜びが無ければ未来に目を向ける事などできない」という竜弦のセリフが最も象徴的だったと思うんですが、たしかに、「この先の未来はきっと明るいものになるはずだ」という前向きな展望を持てないと、未来のことを考えるのって難しいですよね。難しいというか、苦しいというか、考えようと思えないというか。

 「"運命"や"可能性"と呼ばれる転がり回る砂粒の上を 目を閉じたまま飛び移り続けるがいい それが人間にとっての"希望"だ」というセリフからも解るように、「未来をより良いものに変えられるはずだという信念」のことをユーハバッハは「希望」と呼んでいるようです。そして「未来をより良いものに変えることはできないという諦め」のことを彼は「絶望」と呼んでいるわけです。「未来」と「希望」とが密接に繋がっているということがよく分かりますよね。この点については、単行本第2巻の巻頭フレーバーテキストを思い出しても良いでしょう。

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久保帯人BLEACH』2巻巻頭)

 

人が希望を持ちえるのは

死が目に見えぬものであるからだ

 

 ここでは「目に見えぬもの」の具体例として「死」という言葉が出てきていますが、例えばこのテキストにおける「死」という語を「未来」という語に置き換えたとしても、直感的な印象としてはそう変わらないのではないでしょうか。「先々に起きるかもしれない不幸や不運が目に見えないからこそ、人は希望を持つことができるのだ」という大枠のニュアンスは保たれるはずです。言ってみればまあかなり当たり前の話ではあるんですが、こうした「希望」という概念についての哲学というか思想というか、そういうものが今回語られているのかなと個人的には思います。

 

 また、「砂粒」という比喩表現のチョイスも少し気になるんですよね。『BLEACH』において、「運命」とかそういうものとの絡みで「砂」という比喩が使われるのはこれが初めてではないんです。

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久保帯人BLEACH OFFICIAL CHARACTER BOOK SOULs.』254頁)

 本編第1話の前日譚、いわば「第0話」として描かれた短編「the sand」です。このなかで一護は、運命を「歯車」に、その運命に翻弄されるちっぽけな己自身のことを「砂」に、それぞれ擬えています。今週のユーハバッハの比喩では運命そのもののことを「砂粒」になぞらえているので厳密には比喩のニュアンスが少し違うんですが、いずれにせよ久保先生は「運命に翻弄される人間」という表象に対して、どうも「砂粒」的なイメージがセットになっているみたいなんですよね。今週のユーハバッハの比喩にもそれが表れているのかなと思います。この短編については以前、一護とユーハバッハの最初の対峙のときにも触れたことがありましたので、そちらも併せてどうぞ。

 『全知全能』によって全ての可能性・運命の砂粒を眺めることができるユーハバッハに対して、未来を視ることなどできない一護は、ある砂粒から別の砂粒へ目を閉じたまま当て勘で飛び移ることしかできません。それこそ、飛び移った先にある砂粒がより良いものであるはずだという「希望」を抱いて。「厳密には比喩のニュアンスが少し違う」と先ほど言いましたが、しかし、こういう非常に心許ない戦い方を強いられている現在の一護は、やはりたしかに「運命に轢き砕かれる砂」と言っても良いのではないかなと思います。その「運命」を覆す彼の新たな卍解が本当に楽しみです。

 ただ、ではこのまま本当にユーハバッハとの最終決戦へ突入するのかと考えてみると、個人的にはかなり懐疑的ではあります。どう見てもまだ描かれきっていない物事がまだまだ多すぎるんですよね。囚われたハリベルの顛末・地上に落下して分裂したリジェの始末・京楽との「利害の一致」を見たはずの藍染の動向・檜佐木の卍解剣八卍解・雨竜の力の秘密・真世界城へ侵入した竜弦と一心の思惑・霊王亡き後の世界の行く末などなど、誰でもパッと思いつくであろう主要なところを適当に挙げてみただけでもこれくらいは出てきます。

 近年の(特に〈千年血戦篇〉開始以降の)掲載順位を見るに、『BLEACH』はもはや誌面掲載順位の制約から解放されて「久保先生の描きたいものを描きたいように描かせてもらえる」というフェイズに明らかに入っています(過去には『遊☆戯☆王』などがこういう"特等席"に等しいポジションをもらっていました)から、今更になって尻切れトンボ気味に結末を急ぐということも考えにくいんですよね。少なくともいま挙げた程度の内容についてはきちんと片付けてから完結するに決まっていますから、今回のユーハバッハとの戦いもどこかで仕切り直しが起きて、もう少し後になってから本当の最終決戦という感じになるんじゃないかなーと思います。まあ読者としてはどんな展開になっても黙って見守る以外に何もできないんで、こんなこと言ってもアレですが・・・。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。