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Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。寄稿のご依頼などはhoahoahoashi@gmail.comまでどうぞ。

『BLEACH』第676話「Horn of Salvation」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週のBLEACHの感想です。

 

BLEACH』第676話「Horn of Salvation」

 先週の続きからですね。左側頭部から巨大なツノを生やして虚化した一護。それを見つめる織姫の視線は不安げです。織姫にとって、一護の虚化は基本的には「怖ろしいもの」なんですよね。ヤミーとウルキオラの強襲に遭遇したところを助けられたときも、グリムジョーとの死闘のときも、虚夜宮の天蓋の上でウルキオラに殺された一護が暴走したときも、彼女は虚化した一護のことをどこか怖れていました。曰く、「まるで黒崎くんじゃないみたい」だから。

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久保帯人BLEACH』22巻113頁)

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久保帯人BLEACH』32巻93頁)

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久保帯人BLEACH』41巻27頁)

 ここに挙げた画像からも判るように、織姫が抱くこの恐怖の大元には、虚化した織姫の兄・昊(そら)の一件が根を張っているんですね。昊にしても一護にしても、織姫にとっては本来なら自分がよく知っている(しかも心から愛している)相手なのに、虚化してしまうと元々の人間性や理性はまるっと失われてしまうわけで、これが恐怖の対象にならないわけがないんですよね。

 もちろん、戦いが終わって虚化が解ければ一護も正気に戻っていますし、そのたびに「いつもの黒崎くんだ」という安心が訪れてはいるんですが、虚化している最中についてはやはり恐怖の対象になってしまうんですよね。こうした前提があったうえで織姫は一護に呼びかけます。

 それに応える一護の表情ですよ。虚化状態にありながら、織姫を安心させようとして優しく微笑みさえしています。「大丈夫だ 井上」「"俺"のままだ」とまで言っていますから、織姫の不安について一護は完全にお見通しであることが分かりますね。そしてそれによって安堵する織姫の表情ですよ。もう最高としか言えません。感想ブログを書いている人間が言うことではないかもしれませんが、少なくともこのシーンについては、もうこれ以上言葉は要らないというか、彼らのこの表情、やり取りがすべてですよね。

 また、この虚化に対する恐怖は一護自身も抱えていたものなんですよね。ウルキオラ戦以降、彼は自らの破壊衝動に怯えて、虚化をまともに使えなくなってしまいました。

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久保帯人BLEACH』47巻134~135頁)

 しかし、いまの一護は、斬月のおっさんや内なる虚のことを「俺自身の力」として受け入れていますよね。彼らのことを自分とは別個の人格を持った独立の存在だと思っていた"THE BLADE AND ME(刃と私)"の関係から、"THE BLADE IS ME(刃は私)"の関係への転換です。この対話と斬魄刀の打ち直しがあったからこそ、いまの一護があるんですよね。

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久保帯人BLEACH』61巻10,37~38頁)

 

 今週のタイトルは「Horn of Salvation」です。直訳すると「救いのツノ」。ここでいうツノとは、間違いなく虚化した一護のツノのことでしょう。一護が命の危機に瀕したり織姫が助けを求めたりしたときに現れる虚の力は、たしかにある意味では救いの象徴にもなっているんですよね。また"salvation"という語は、定冠詞付き大文字の"the Salvation"と表記した場合、キリスト教神学における「(神による)救い、救世」「救世主」の意味になります。この戦いの果てに一護が世界を救うことになるのかなという気がやはりしてきます。

 

 一護は、自身に宿る二つの力のあり方について「反目し合って均衡を保ってた」と表現しています。これはおそらく「一護の本来の力である虚を抑えこもうとしていた"斬月のおっさん"」と「一護の体を支配しようとする"内なる虚"」という関係のことを言っているのでしょう。この関係については以前にも触れられたことがありましたね。一護の精神世界のなかで一つの肉体を共有している彼らは、どちらか一方の力が増大すれば主導権が移るようになっている、という話をしていました。また、「最後の月牙天衝」修得のときには彼ら二人が半々に融合した姿も見せていましたが、これなどはまさに「均衡」した状態そのものだったのでしょう。

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久保帯人BLEACH』25巻86頁)

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久保帯人BLEACH』47巻138頁)

 ただ、一護はその力を完全に掌握できているというわけでもないようですね。斬月のおっさんによる枷が無くなってからまだ間もないからでしょう。とはいえ、以前のように体を乗っ取られて暴走してしまうというほどでもなさそうです。もしそんなに際どい状況なのだとしたら、一護にここまでの余裕はないでしょうし。

 

 あらためてユーハバッハの許へ踏み出していく一護ですが、ここにまたいかにも意味ありげな描写がありますね。織姫は、自分自身と一護の両方を守るような位置で盾を張ったはずでした。そのまま前方へ進めば、盾にぶつかるはずなんですよね。なのに一護はそうはならなかった。素直に考えれば「前方へ歩いて行った結果、"盾をすり抜けた"」という話になりそうです。だとしたら、なぜそんなことが起きているのでしょうか。

 そもそも織姫の『盾舜六花』は、「拒絶」という概念がコンセプトになっています。『三天結盾』で盾の「外側」を、『双天帰盾』で盾の「内側」を、『孤天斬盾』で盾の「両面」を、それぞれ拒絶する能力です。藍染などはこれらをまとめて『事象の拒絶』と呼び、「神の領域を侵す能力」と評していましたね。事実、粉々に吹き飛ばされた死者を蘇らせることすらできる、完全に常識はずれの力です。

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久保帯人BLEACH』5巻175,178~179,181頁)

 しかし、『盾舜六花』の拒絶が全く通用しない相手がいましたよね。

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久保帯人BLEACH』68巻72~73頁)

 霊王です。ユーハバッハによって(あるいは一護によって)殺害された霊王を、織姫は『双天帰盾』で蘇生させようとしますが、盾を張って霊王を包み込むことすら叶いませんでした。これと同じことが、いまの一護に対して起きているのではないかなと思うんです。「いまの一護は、織姫の能力では干渉できない、高い次元の力を帯びている」というような感じで、盾による拒絶を無視できてしまってるんじゃないかなと。盾を「破壊した」のではなく「すり抜けた」らしいというのが、いかにもそういうことっぽいなあと。やはり一護は霊王に――あるいは「神」に――匹敵する何かを持っているのだろうなと思います。

 で、一護は織姫に「退がってくれ」と言っていますが、この言い方も、かつて虚化に振り回されていた頃のそれとは全く異なるものなんですよね。

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久保帯人BLEACH』22巻113~114頁)

 内なる虚が目覚めたばかりで、いつ体を乗っ取られるかと戦々恐々としていた頃の一護は、霊圧だけでなく人間的な雰囲気まで非常にザラついていて近寄り難いものになっていました。言葉遣いも明らかに乱暴です。織姫は完全に怯えきっていますよね。織姫が恐れているのはあくまでもこういう「黒崎くんじゃないみたい」という状態なわけですから、虚の力を解放しているにもかかわらず平時と変わりない振る舞いをしている現在の一護は、むしろ非常に頼もしく映るんじゃないかなと思います。「巨大な力をきちんと制御できている人物」というのはそれだけで信頼に値するものですし。

 

 戦場を少しばかり広くしてから、一護は再びユーハバッハへ突撃します。これを迎え撃つべくユーハバッハが抜き放った光の剣ですが、これはおそらく、元柳斎を両断したときに使ったあの剣なのでしょうね。決まった名前などがあるのかは分かりませんが、きわめて強力な攻撃手段であることは間違いないでしょう。

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久保帯人BLEACH』58巻20~21頁)

 一護は初撃を止められ、血飛沫を上げながら斬り飛ばされます。ここで黒い霊圧に覆われていたユーハバッハの目許が少し覗いていますが、彼の「眼」の状態を見た限りでは、いまは『全知全能』を行使していないようですね。もし使っていれば瞳が増えているはずです。まだ『全知全能』を使ってやるほどではないということなんでしょうか。

 

 これに対して一護は、ただの月牙天衝ではなく、「月牙天衝と混ざり合った"王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)"」を放ちます。

 『王虚の閃光』とは、「解放状態の十刃が血の触媒で放つ虚閃」のことです。本編中ではグリムジョーが使用し(ただしそのシーンでは彼は刀剣解放はしていませんでした)、『劇場版BLEACH 地獄篇』の先着入場者プレゼント冊子『The Hell Verse』所収の描き下ろし短編では、地獄に堕ちたザエルアポロが使用しています。

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久保帯人BLEACH』32巻39~43頁)

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久保帯人BLEACH OFFICIAL INVITATION BOOK The Hell Verse』31頁)

 「血の触媒で放つ」という言葉のとおり、今週の一護も、『王虚の閃光』を放つ瞬間の霊圧が血飛沫を纏っていることが分かりますね。ただの虚閃ではなく『王虚の閃光』であるということがこれで分かります。

 ただ、虚の力を持っているとはいえ、なぜ一護がこうして最上級の威力を持つ虚閃を撃つことができるのかという疑問は当然あるかと思います。虚の力を持ってるって言っても、そこまで上等な虚ってわけでも無いんじゃないのかと。これについては、一護の内なる虚の大元になった人造虚「ホワイト」の成り立ちを見れば分かります。

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久保帯人BLEACH』60巻28,183頁)

 東仙や王悦によると、ホワイトは「数多くの死神の魂魄を重ねて造られた虚」だそうです。王悦はこの点について「ウチの浅打達の成り立ちと同じDa」と言っていますが、もう一つ、よく似た成り立ちのものがありますよね。「幾百の虚が折り重なり混ざり合って生まれたとされる巨大な虚」こと、『大虚(メノスグランデ)』です。

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久保帯人BLEACH』6巻97頁)

 数多くの虚を喰らい続けて力を増した虚がやがて大虚になるわけですが、人造虚「ホワイト」は、「多くの死神の魂魄を重ねて造られた」という性質上、ただの虚よりも大虚に近い存在だったものと考えられます。実際、ホワイトの『虚閃』を受けた一心がそのような見立てを述べていました。一護が『王虚の閃光』などという最高水準の虚閃を撃つことができるのも、身の内に棲む虚がそれだけ程度の高い代物だからこそだと考えれば納得できるかなと思います。当時の現役十番隊隊長だった一心が苦戦を強いられるほどの強さですから、ホワイトの戦闘能力はおそらく相当なものだと思われます。

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久保帯人BLEACH』60巻20~21頁)

 

 また、これを見たユーハバッハが「月牙天衝と混ざり合った」とわざわざ述べていることについては、おそらくこの記事を読んでもらえれば納得できるのではないかと思います。

 『月牙天衝』と『虚閃』は混ざり合って当たり前なんです。なぜなら『斬月』は「虚の力」と「滅却師の力」を併せ持つ斬魄刀であって、そこから放たれる『月牙天衝』は『虚閃』と『神聖滅矢』をベースにしたものなのですから。この伏線の見立てがどうやら正しかったらしいというのは、個人的には本当に嬉しいです。

 おそらく、これからの戦いのなかで一護が左手側の小刀から月牙天衝を放つときに「月牙天衝と混ざり合った神聖滅矢」という話になるんじゃないかと思います。そのときには小刀のほうも白く染まったりしそうですね(とりあえず今週の時点では黒いままでしたが)。

 ただ、じゃあこれまで一護が卍解状態にあるときに放っていた「黒い月牙天衝」は無くなっちゃうのかというと多分そういうわけでもないだろうなと思います。霊王宮でユーハバッハと対峙したときにすでに一度黒い月牙天衝を放っていますし、ウルキオラは一護の黒い月牙天衝のことを『黒虚閃』に似ているとも言っていましたから、「白い月牙天衝は『王虚の閃光』で、黒い月牙天衝は『黒虚閃』」という感じの使い分けが可能になるのかなと思っています。一護というキャラクターのコンセプト的にも「白と黒の共存・宥和」的な面があるでしょうから、白が黒を完全に駆逐しちゃうってことは無さそうですし。

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久保帯人BLEACH』40巻123頁)

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久保帯人BLEACH』68巻125~126頁)

 

 最後の見開きページに描かれている一護の顔をよく見ると、どうも虚の仮面が形成されつつあるように見えますね。地肌に仮面紋が刻まれているのではなく、肌の上にもう一枚の層ができているように見えます。これ、たぶん彩色されていれば肌の色との違いによってハッキリ判るんですよね。この辺の判断の難しさは日本の白黒マンガの宿命といったところでしょうか。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。