Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第659話「There Will Be Frost」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週のBLEACHの感想です。

 

BLEACH』第659話「There Will Be Frost」

 先週のヒキをそのまま受け継ぐかたちで始まりました。ジェラルドが自らの肩書を「神赦親衛隊」と名乗っていますね。「神赦」という言葉は初めて出てきたものですが、その字面とこれまでの描写から判断するに「神の赦しを得た」くらいの意味だろうと思われます。「最後の審判」の戯画化である〈千年血戦篇〉のなかで神の尖兵たる天使として描かれ、不死の魂すら与えられている親衛隊は、他の誰よりも「神に赦された者」であるはずですから。

 右腕にまとわりつく氷を左腕の一撃で粉砕し、わざわざ右手で握手(という名の打撃)をキメていくジェラルド、紳士なのか煽り屋なのか判別しがたいところですね。たぶんジェラルドとしては嫌味のつもりはないのだろうと思いますが、やられる方にとってはなかなかイラッとくるものがありそうです。

 ジェラルドの打撃を、日番谷は飛翔して躱します。特別な敵意など抱こうはずもないジェラルドに対して初手から卍解を行使しているあたり、やはり容赦するつもりはないように見えます。まあ、日番谷はそもそも「冷めた性分」「氷のよう」という性格を本人が自覚しているくらいに冷淡さが前面に出たキャラクターですから、思い入れのない相手に対してはこれくらい容赦が無いのが本来の姿だという見方もできるかもしれませんが。

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久保帯人BLEACH』32巻176頁)

 その姿を、雛森が地上から見つめています。十二番隊の隊首室で「十番隊は消息不明」と聞かされて以来の邂逅ですね。彼がゾンビ化させられていたことなど雛森は知る由もないはずですから、彼が滅却師の衣装を着ていることについて後で問うたりするかもしれませんね。

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久保帯人BLEACH』68巻20頁)

 しかし、雛森日番谷の関係性を強調するカットをこうして入れてきているのを見ると、ジェラルド戦ではこの二人に焦点を当てるのかなという感じがしてきますね(この二人の関係性だけとも限りませんが)。雛森の口から思わずこぼれた言葉が「シロちゃん」という愛称であることもあわせて考えると、彼らの昔ながらの関係に何らかの「訣別」が訪れるのかもという予感があります。

 個人的には、日番谷雛森の関係性はいわゆる「純朴すぎて危なっかしいところがある姉と、それをハラハラしながら見守るしっかり者の弟(を自認しているけど彼自身もまた姉が大事すぎて離れられなくなっている)」的な、「家族愛」「姉弟愛」に類する共依存的な絆だと思うので、家族からの独り立ちというか、姉離れ、弟離れ的な話になるのかなと思います。

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久保帯人BLEACH』15巻149頁)

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久保帯人BLEACH』16巻16頁)

 

 今週のタイトルは「There Will Be Frost」です。直訳すると「やがて霜が降りるだろう」という感じでしょうか。日番谷の力が猛威を奮うことを予言しているようなタイトルですね。「霜」というキーワードに特に着目してみた場合は、あるいは北欧神話に登場する「霜の巨人」に引っ掛けている部分もあるのかもしれません。

 

 場面が変わって、雨竜の回想です。

 雨竜の母・叶絵は、9年前に行なわれたユーハバッハの『聖別』によって倒れ、その三ヶ月後に命を落としたという話がありました。しかし、その遺体を夫である竜弦が解剖していたらしいというのはさすがに尋常なことではありません。世間的には、叶絵の死はおそらく原因不明の病死とか衰弱死という扱いになるのでしょうが、滅却師である竜弦は本当の死因に気づいていたはずです。一心に『聖別』の詳細や「聖帝頌歌」を教えることができた人物が、竜弦以外には思い当たりませんから。

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久保帯人BLEACH』60巻122,124頁)

 にもかかわらず、おそらくは正式な病理解剖などの手続きを踏まずにわざわざ「私的な解剖」を行なっていた(竜弦以外の施術者や助手などが誰もいない・雨竜が解剖の様子を勝手に覗き見できたなど、「公的な手続きを踏んでの解剖」とは考えにくい状況だった)らしいというのはかなり意味深いことのように思えます。おそらく竜弦には「どうしても叶絵を解剖しなければならない理由」が何かあったのでしょう。雨竜はあくまでも「竜弦は医者の仕事の一環として妻を躊躇いなく解剖した」と考えているようですが、仕事場の自室の机に叶絵の写真を飾り続けている竜弦がそのような冷血漢だとはとても思えません。この辺りはおそらく、以前に述べた「竜弦の守りたいもの」という一連の話に繋がってくるのではないかと思います。

 ただ、一護との会話を見るかぎり、竜弦が叶絵の遺体を解剖しているのを見てしまうまでは、雨竜は「医者になるつもり」ではいたらしいんですよね。雨竜と竜弦の確執は、まさにこの「母の解剖」をきっかけに始まったのかもしれません。裏を返せば、それ以前の親子関係はまあ良好だったのかなと。父親を嫌っている子供が「父親と同じ職業に就きたい」とはなかなか考えないでしょうから、少なくとも嫌ってはいなかったのだろうと思います。

 それにしても、高校の屋上で将来のことなどを話す一護と雨竜、なんかこうすごく「気心の知れた良き友人」っていう雰囲気があって素晴らしくないですか。〈死神代行消失篇〉での一護と啓吾にも同様のシチュエーションがありましたが、それと同じくらいに良き友人関係・信頼関係をこの二人は築けているのだということが分かりますよね。「話してもいいと思ったときに話してくれればいい」という、一護の少し引いたいつもの距離感もたまりません。

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久保帯人BLEACH』49巻21頁)

 

 回想が終わって、真世界城へ帰還した雨竜。道中で死神たちとの会敵はしなかったようですが、遭遇を意図的に回避するよう行動していた部分もあったのかなと思います。雨竜が本心からユーハバッハに従っているわけではないらしいことはまあ明白ですから、間違っても戦闘にはなりたくないでしょうし。

 雨竜を出迎えたハッシュヴァルトの「未来が視えると言うのは思い悩む事ばかりだ そうだろう 石田雨竜という言葉ですが、これは明らかに、かつて竜弦が言った「喜びが無ければ未来に目を向ける事などできない」という言葉に対応するもののように見えます。この点について雨竜がどのような考え方を持っているのか、どんな「未来」を見ることになるのか、引き続き注目していきましょう。

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久保帯人BLEACH』59巻185頁) 

 ハッシュヴァルトの口ぶりは「雨竜も未来を視ることができる」ということをほとんど自明視するようなものになっていますが、雨竜に与えられた"A"の聖文字の正体も含めて注意したいところです。

 

 また、雨竜の祖父・宗弦についても新たな情報が明かされましたね。ルキア奪還に向けた修行の際に雨竜が使用した『散霊手套』は、元々は宗弦が『見えざる帝国』から持ち出したものだったと。

 宗弦がある時期までは『見えざる帝国』の一員として生きていたということなのか、それとも何らかの目的のために帝国へ乗り込んで行って盗み取っただけなのか、またそれが具体的にいつ頃のことなのかは分かりません。しかし、仮に『見えざる帝国』の一員だったのだとしても、ごく若い時期に離脱したのではないかと思います。宗弦は現世で結婚して家庭を持ち、その息子である竜弦などは「ただの滅却師の生き残り」として普通の人間と概ね変わりない生活を送っていたわけですからね。

 ちなみに、『散霊手套』の正式名称である「苦難の手袋(ライデンハント)」という言葉は、ドイツ語では"Leiden Hand"と表記すれば良いようです。"Leiden"は「苦しみ・苦痛」、"Hand"は「手」を意味しますから、ほぼ文字通りの意味ですね。

 雨竜がこれと同様の機構を持ったチップを城内にばら撒いていたとすれば、その目的は当然、親衛隊やユーハバッハの戦闘を妨害すること以外にありえないでしょう。あるいは真世界城の霊子の結合を破壊して城そのものを無きものにするという線もありうるでしょうか。いずれにせよ、やはり雨竜はユーハバッハに大人しく従うつもりなど毛頭無いようです。

 あくまでも白を切るつもりの雨竜にハッシュヴァルトがとうとうキレたというか、手段を選ばなくなったというか、城の壁を破壊して無理矢理に一護と鉢合わせさせました。当然、「裏切り者でないのなら黒崎一護とその仲間を殺せ」ということなのでしょう。雨竜はいよいよ進退窮まった感がありますが、果たしてどうなるでしょうか。高校の屋上で友として語らっていた情景を見せた直後にこの最悪の邂逅を描くという久保先生の構成の残酷さに、もはや感動すら覚えます。次回を楽しみにしておきましょう。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。