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『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第652話「The Theatre Suicide SCENE 6」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週のBLEACHの感想です。

 

BLEACH』第652話「The Theatre Suicide SCENE 6」

 伊勢家に伝わっていた斬魄刀『神剣・八鏡剣』が解放されました。ユーハバッハの下僕として”神”の力を放つリジェのような者の目には、この斬魄刀は光を反射して眩しく映るんですね。

 この「”神”なるものの放つ光を反射する」という性質は、やはり「八咫鏡」の神話を踏まえたものだと思います。

 古事記における「岩戸隠れ」の記述では、岩戸に隠れたアマテラスを引きずり出すために神々が岩戸の前で大騒ぎをし、これに気を引かれたアマテラスに対して「貴方様よりも尊い神が現れたので、みんなでそれを喜んでいるのです」と告げ、その目の前に「八咫鏡」を差し出します。アマテラスは、「八咫鏡」に映った自分自身の姿をその「自分よりも尊い神」だと勘違いして、もっとよく姿を見ようと身を乗り出しますが、その瞬間に隠れていた他の神々に手を引っ張られて岩戸から引きずり出される、という顛末になっています。

 「神の光を反射する」という性質は、この神話が下敷きになっているのかなと思います。まあ「八咫鏡」がモチーフであるとすれば当たり前の話ではあるんですが。

 

 七緒がリジェに向かって斬りかかったところで回想へ。七緒の母が『神剣・八鏡剣』を京楽に託したのは、京楽がまだ真央霊術院の院生だった頃なんですね。つまり、一時貸与された『浅打』をこれから自分の斬魄刀として創り上げようとしていた時期だったわけです。「お花」が「お狂」を産んだことで事後的に「二刀一対」となったはずの『花天狂骨』がごく当たり前に「二刀一対」として認知されていたのは、そもそも『花天狂骨』よりもさきに『神剣・八鏡剣』と出会っていたからなんですね。おそらく、京楽が『花天』の名を知ったのとほぼ同じタイミングで『神剣・八鏡剣』を隠してもらい、「二刀一対」になったのでしょう。

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久保帯人BLEACH』59巻48頁)

 

 院生時代の七緒が見た京楽の後ろ姿ですが、ここで描かれている京楽の着物は、どうもトーンが間違って貼られているように思えてなりません。少なくともこのシーンでは、前頁で七緒の母が身に着けている「いつもの京楽の着物」を羽織っていなければおかしいと思うんですよね。少し後に出てくる「羽織る着物を変え」という記述とも合致しませんし。久保先生の仕事場においてトーン処理をやるのが誰なのかなどは知る由もありませんが、久保先生自身が貼り間違えたのか、アシスタントのうちの誰かが勘違いして貼ってしまったのを久保先生も見落としてしまったのか、というあたりかなと思います。おそらく単行本では修正されるだろうと思いますが…。

 また、七緒が京楽に対して違和感を抱くきっかけとなった着物と簪(かんざし)ですが、これについては単行本のオマケページで過去に言及がありました。着物と帯は安物である一方、簪だけは「かなり高価なもの」という設定があることから、おそらく一点物として造られた品で、だからこそ七緒が母との関連に思い至るきっかけになり得たのではないかと思います。どこにでもあるような代物ではないということは当初から設定されていたようです。

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久保帯人BLEACH』18巻巻末)

 

 七緒の八番隊配属が決まったシーンについてですが、「支給された浅打を自分のものにする事はできなかった」というのが興味深いですね。伊勢の斬魄刀があるかぎり他の斬魄刀は得られないのかもしれません。彼女が鬼道に精通しているのは、もともと才能があったからというのもあるでしょうが、そもそも斬魄刀を得られなかったことによるところが大きかったのですね。

 思えば、尸魂界が『見えざる帝国』に乗っ取られた際に七緒が披露したオリジナルの鬼道『白断結壁』に鬼道衆の紋章(トゲが三つ生えた円のかたち)が刻まれていたのも、彼女が元は鬼道衆を志願していたことと関係があるのかもしれませんね。斬魄刀を持たずに鬼道だけで戦おうとするのであれば、その道のプロに協力を乞うのは不思議ではありませんから、入隊後も個人的に交流していた可能性はありそうです。

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久保帯人BLEACH』19巻185頁)

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久保帯人BLEACH』62巻7頁)

 

 そもそも斬魄刀を持たない者を護廷十三隊に入れることが可能なのかという疑問は出てきますが、これまでの描写を見るに、護廷十三隊の人事については隊長の胸三寸でかなりの程度左右できるようではあるんですよね。藍染が尸魂界に反旗を翻したときにも、かつて自分の裁量で恋次・吉良・雛森の三人を五番隊へ迎え、扱いの難しそうだった恋次だけはさっさと他隊(おそらく十一番隊)へ放り出したということを明言していました。隊長格の強い意向があれば、七緒のような例外的な配属もさほど問題にはならないのかなと思います。

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久保帯人BLEACH』9巻178頁)

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久保帯人BLEACH』20巻112頁)

 

 七緒が入隊した後の京楽は、羽織る着物を変えて簪を抜いていました。七緒に母親との関係を悟られないようにするためですね。むしろその変化によって七緒に全てを気づかれてしまったのですから皮肉なものですが。七緒が入隊した当初の京楽がこういう距離感で七緒と向き合っていたのであれば、過去編(約110年前)での距離感の遠さについても納得できます。そして何より、過去編時点での京楽もまた簪を差しておらず、羽織っている着物も七緒の母とは関係ないものになっています。こういう重要な描写を何気なく配しておいてサラッと拾っていくあたり、さすが久保先生だなと本当に感心しますね…。この符合から考えると、七緒の八番隊入隊は過去編よりも少し前くらいの時期だと考えられそうですね。

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(36巻22,35,178頁)

 

 回想が終わり、現在の戦闘へ。人を斬ることができない刃の無い斬魄刀ですが、リジェのような「神の力を放つもの」にこそ必殺の力を持ちうるんですね。リジェが生身の肉体から解き放たれたらしいことが逆に弱点となっているわけですから、やはり能力の相性としてこれ以上のものは無さそうです。

 

 リジェが大威力の攻撃で七緒を仕留めようとするなか、今度は影の中に潜む京楽の回想へ。七緒の母親は、『神剣・八鏡剣』紛失の罪に問われて刑死していたんですね。これについて京楽が自分を責めるのはちょっと内罰的すぎるような気はしますが、たしかに、自分が断固として斬魄刀の預かりを拒否していれば避けられたのかもしれないと思うと、自責の念に駆られるのも仕方ないことかなと思います。「重苦しいのは苦手だ」という彼の性分も、こういう自責的なところや責任感が強すぎることの裏返しなのかもしれませんね。人から預かったものを真っ正直に背負い込みすぎるというか、その重みに”慣れる”ということが苦手な性分なのかもしれません。託された簪や着物をずっと律儀に身に着けているのも、そういう気負いの表れなのかなと思います。

 ところでこの簪について少し気になったのが、京楽が兄から託された簪が一本だけだという点です。京楽の髪には二本差してありますから、もしかすると兄夫婦が二人で一本ずつ持っていたものを別々に託されたのかなと思います。だから七緒も「母のもの」として見覚えがあったのかもしれません。そのように考えると、京楽の兄が簪を託したときには、自分の妻と、やがて生まれてくる娘のことも一緒に託したと考えたほうが良さそうですよね。「いちばん大事なものを預けて」という言葉にも相応しいですし、それを京楽が重荷に感じ続けることにも納得がいきます。なにしろ本当に重すぎますからね。

  で、このように考えると、「ボクの肩を軽くしてくれ」「ボクに君を守らせてくれ」との繋がりも多少見えてくるのかなと思います。これまで京楽が『神剣・八鏡剣』や七緒のことを重荷に感じていたらしいのは、それら色々なものを「兄夫婦から託されたから」ですよね。「大切な人からの頼まれごと・約束事を果たさなければならない」という責任感から来る重圧、外的な義務感が京楽の肩にのしかかっていたわけです。

 であれば、京楽が七緒を守るということに関して、「兄夫婦との約束は関係なく、自分自身の意志で彼女を守りたいと思うから守るのだ」というふうに京楽が開き直ってみたらどうでしょうか。少なくとも、「兄夫婦との約束」に対する義務感をことさら強烈に感じる必要は無くなるのではないでしょうか。七緒に対する気持ちをおおっぴらに認めてしまうかどうかで、少なくとも京楽本人の感じ方は相当違ってくるように思います。そういう意味で、「ボクの肩を軽くしてくれ」「ボクに君を守らせてくれ」という言葉がセットで出てきたのかなとわたしは思います。

 

 最後に京楽が影から飛び出してきて、七緒の背後から刀に手を添えて構えたところで今週は幕です。京楽が何をする気なのかはわかりませんが、この流れから行くと、「二人で一つの卍解みたいなものが飛び出したりするのかなと思ってしまいますね。京楽は『神剣・八鏡剣』と長らく共にいましたし。次回が楽しみです。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。