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Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。寄稿のご依頼などはhoahoahoashi@gmail.comまでどうぞ。

深読み5 ~BLEACHにおける「神」の象徴~

 こんにちは。ほあしです。

 先日の感想記事(『BLEACH』第632話「friend 2」の感想・考察)でお約束した通り、今回は、『BLEACH』という作品のなかで「神」を象徴する記号としてたびたび登場している「*(アスタリスク)」の紋章についてお話しします。更新が遅くなってすみませんでした。

 

 『BLEACH』には、「神」を象徴する記号として、「*」のかたちをした紋章がたびたび登場しています。作品の中で「神」に近い存在として描かれている何人かのキャラクターには、何らかのかたちで「*」の紋章が付随して描かれているのです。

 今回は、そういった作品内の描写をご紹介したうえで、なぜ「*」の紋章が「神」の象徴として用いられているのか、わたしの見立てをお話しします。

 

「神」に近い人物と、それにまつわる描写の具体例

CASE 1. 井上織姫

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久保帯人BLEACH』5巻163,170,184頁)

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久保帯人BLEACH』27巻144頁)

 織姫の持つ『盾舜六花』という能力は、『すでに起きてしまった事象を拒絶して、”無かったこと”にする』という常識外れのものです。それゆえに、藍染惣右介はこの能力を「神の領域を侵す能力」と呼んでいます。

 彼女のこの能力は、いまは亡き兄からもらった「花をモチーフにしたヘアピン」が形を変えたものであり、おそらくは完現術の一種です。そのヘアピンにあしらわれた「花」の形状はまさしく「*(アスタリスク)」そのものになっています。本来は雪の異称である「六花」という名前自体も、この紋章を想起させるものですよね。このように、「神」に近い能力を持つ者である織姫に、「*」の紋章が付随して描かれています。

 

CASE 2. 藍染惣右介

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久保帯人BLEACH』12巻巻頭,40,42頁)

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久保帯人BLEACH』20巻220~221頁)

 藍染惣右介がたびたび「神」に擬えられている、という読み方は、これまでにも繰り返し述べてきました。その一環として、藍染には「岩壁の花というイメージが付加されているんですね。ここに載せた画像の一枚目、『BLEACH』単行本第12巻巻頭のフレーバーテキストがそれを端的に表しています。ここでは、「岩壁の花」という表象を、「恐れ知らずにも天の高みを目指す人物(=藍染)」の比喩として用いているわけです。

 また、藍染が謀略の一環として自らの死を偽装した際には、高い壁の上方に串刺しにされるという極めて派手な死に様を演出しています。血飛沫の飛び散り方まで含めてこの死に様を眺めれてみれば、これはまさしく「岩壁の花」そのものです。事実、藍染のこの偽装死が描かれた『BLEACH』第100話のタイトルは「それは岩壁の花に似て」です。藍染惣右介=岩壁の花=天の高みを目指す者」という構図は、単行本の第12巻が発売された2004年3月時点ですでにかなり明確に示されていたわけですね。そしてそこで示された構図のとおり、藍染は自らが「天に立つ」べく、霊王弑逆を企てたわけです。

 こんな感じで、藍染もまた、織姫の『盾舜六花』と同じように「花」のイメージが付加されているんですね。それも「天の高みを目指す者・神に近づこうとする者」という含意とともに。「*」の形状をした紋章そのものが藍染とともに描かれているということではないのですが、「神」に近い存在を「花」になぞらえている、という大きな共通項があるので、ここに挙げました。また、彼の斬魄刀『鏡花水月』の名前に「花」という字が含まれているというのも、ひとつにはこの含意があるのだと思います。

 

 織姫と藍染の二人が「神」に擬えられている、という話は、以前の記事(作品論5 〈破面篇〉=スペインの新大陸侵略)で別の角度から触れたことがありますので、よければそちらも併せてお読みください。

 

CASE 3. ユーハバッハ

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久保帯人BLEACH』63巻84,98頁)

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久保帯人BLEACH』65巻67頁)

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久保帯人BLEACH』66巻138~139頁)

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久保帯人BLEACH』67巻150~151頁)

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久保帯人BLEACH』69巻115頁)

 『見えざる帝国』の皇帝・ユーハバッハの身辺には、ことあるごとに「*」の紋章が登場しています。「ユーハバッハ(=聖書宗教における唯一神YHWHの名から取った)」という彼の名前や、未来の全てを見通す『全知全能(the Almighty)』という能力などを見れば、明らかに「神」、それも聖書宗教における唯一神YHWHヤハウェ)をそのキャラクター造型の下敷きにしているということが分かりますよね。

 そんな彼の周りには、ここに挙げた画像のように繰り返し「*」の紋章が登場しています。「神」であるユーハバッハ本人を象徴する紋章であるかのように、何度も。

 

 ユーハバッハが聖書宗教の唯一神に擬えられている、という話についても以前の記事(作品論6 〈千年血戦篇〉=ナチス・ドイツの世界侵略)で触れたことがありますので、併せてどうぞ。

 

CASE 4. 黒崎一護

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久保帯人BLEACH』50巻105頁)

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久保帯人BLEACH』52巻40頁)

 一護にも、「*」の紋章とともに描かれたシーンがありました。ひとつは、完現術の修行のなかで一護が放った黒い霊圧が、ちょうど「*」に相当するような形状になったシーン。もうひとつは、一護の完現術が完成したとき、「死神代行戦闘許可証」に刻まれた絵柄(虚の仮面の背後に×印が記されたような絵)が、縦の直線一本に×印が交差したような絵柄に変化したシーンです。

 一護は、死神・虚・滅却師・完現術者というおよそ全ての霊的資質を兼ねそなえた状態で生まれてきました。霊力のバリエーションとしては冗談抜きで「なんでもできる」わけで、つまり、一護は霊的には全能である」という可能性がそれなりにあるわけです。「全能者」とは、すなわち「神」にほかなりません。一護が持って生まれた全ての霊的な力が、彼を「神」たらしめているかもしれない、ということです。

 実際、一護の全能性・神性を仄めかすような描写が一度ありました。

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久保帯人BLEACH』67巻181~183頁)

 霊王宮に攻め込んできたユーハバッハに敗れ、全身をバラバラに砕かれるかたちで殺害された零番隊の頭領・兵主部一兵衛を、一護は「名前を呼ぶ」という行為のみによって復活させます。「この世に無いものを、その名を呼ぶことで存在せしめる」というのは、聖書宗教において神がこの世界を作ったときの行為そのものです。創世記の「神は「光あれ」と言われた。すると光があった。」という文言はあまりにも有名ですね。ヨハネ福音書「はじめに言葉ありき」を思い出してもよいでしょう。ヨハネ福音書では「全てのものは言葉によって生まれるのであって、言葉によることなく生まれるものは何一つとして無い」というような意味合いの文言がそのあとに続くわけですが、このシーンで一護が行なったのはこれと全く同じことなわけで、つまり「神」に匹敵する権能をここで示してしまっているんですね。一護が「神」に近い存在かもしれない、というのは、こういう意味においてです。

 

 以上、四人のキャラクターについて、「*」の紋章との関わりと、それぞれどのような意味で「神」に近い存在であるのかを説明してきました。

 ここからは、「なぜ「*」が「神」の象徴として扱われているのか」という根本的な部分について、わたしの個人的な見立てをお話しします。

 

なぜ「*」が「神」の象徴として扱われているのか

 ここまで述べてきた内容から、『BLEACH』の作品中で「神」に擬えられている何人かのキャラクターは、何らかのかたちで「*」の紋章と関連があるように描かれているということは分かっていただけたかと思います。では、なぜ「*」という紋章が「神」の象徴であると言いきれるのでしょうか。

 それは、実際の社会においても、「*」ときわめてよく似た形の紋章が、イエス・キリストの象徴として用いられているからです。その紋章とは、「ラバルム」及び「ベツレヘムの星」です。

 

根拠1. ラバルム

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/b/b5/Labarum.svg/200px-Labarum.svg.png

ラバルム(Labarum)とは、ローマ帝国正規軍の紋章の一つ。コンスタンティヌス1世により制定された。ギリシア文字のΧ・Ρを重ね合わせた形が特徴。この紋章をかたどったXPの組み文字は、今日でもイエス・キリストの象徴となっている。

ラバルム - Wikipediaより引用)

 この「ラバルム」という紋章、「*」の形にたいへんよく似ていると思いませんか? Ρのてっぺん部分を除けば「ほぼ完全に一致している」と言ってよいレベルではないかと思います。キリスト教における救世主、受肉した神の子イエスを象徴する紋章が、「*」にきわめてよく似た形状をしているわけです。

 「*」の紋章を「神」の象徴と見なす、第一の根拠がこの「ラバルム」です。

 

根拠2. ベツレヘムの星

 ベツレヘムの星(ベツレヘムのほし)またはクリスマスの星(クリスマスのほし)は、東方の三博士(別名「東方の三賢者」「東方の三賢王」)にイエス・キリストの誕生を知らせ、ベツレヘムに導いた、キリスト教徒にとって宗教的な星である。

ベツレヘムの星 - Wikipediaより引用)

 「ベツレヘムの星」というのは、上記の引用にもあるとおり、イエスの誕生を東方の三博士に啓示した星のことであり、イエス・キリストとはきわめて所縁の深いものです。クリスマスツリーの先端に取り付ける星飾りのモチーフにもなっています。

 ただ、今回の議論で大事なのは、この宗教的・神話的な星そのものではありません。本当に大事なのは、このイエス誕生を告げた星と同じ呼び名を与えられた「花」のほうなんです。

 

https://minhana.net/wikidata/A0493/picture_normal/A0493_picture_normal.jpg

日本へは明治時代の末期に渡来した。 観賞用に栽培されているものが逸出して野生化している。 英名はスターオブベツレヘム(star of Bethlehem)である。 キリスト生誕を知らせたベツレヘムの星にたとえられた名前である。 和名はアマナに花が似ていることからつけられたものである。

オオアマナ(スターオブベツレヘム)/みんなの花図鑑より引用)

 和名で「オオアマナ」と呼ばれるこの花、英名ではずばり「star of Bethlehem(ベツレヘムの星)」と呼ばれるそうです。花の形状が星の輝くさまに似ていることからこの名が付けられたのだとか。花弁が六枚、まさしく「*」の紋章そのものといった形をしていますよね。

 さきほど、藍染について「「神」に近い存在を「花」になぞらえている」という共通項の一点押しでしつこく説明したのは、この花の存在が念頭にあったからなんです。

 なんにせよ、「*(アスタリスク)」の紋章がなぜ「神(とくにキリスト教唯一神)」を象徴するものであると言えるのか、という疑問に対しては、「ラバルム」という紋章及び「ベツレヘムの星」という花の存在をもって回答に代えさせていただきたいと思います。

 

おわりに

 いかがだったでしょうか。

 この記事が『BLEACH』という作品をより深く味わうための一助になれば幸いです。

 

 これは余談ですが、テレビアニメ版『BLEACH』の最初のオープニング曲は、ORANGE RANGEの『*~アスタリスク~』という楽曲でした。

 インディーズ時代からあった曲であり、その当時の曲名は「星」。その後、「タイトルが記号って何か面白いんじゃない?」というメンバーの思いつきにより今の「*〜アスタリスク〜」となる。「上海ハニー」とともにデビューシングル候補にあがっていた曲である。

*〜アスタリスク〜 - Wikipediaより引用)

 しかし、こういう経緯で生まれた楽曲だそうですから、基本的には、『BLEACH』という作品のなかで描かれている「*」の紋章が意味するところとは呼応しているはずもないんですね。アニメ化された当時、マンガ本編はまだ尸魂界篇の半ばあたりでしたから、今回の記事で説明したような描写の蓄積はそもそも存在すらしていなかったわけですし。

 にもかかわらず、その後の『BLEACH』という作品のなかでくりかえし描かれることになる「重大な象徴的意味を持つ紋章」とドンピシャで一致したタイトルが、最初のOP曲として採用されたわけです。偶然の一致とはいえ、たいへん面白い話だと思います。

 

 今回の議論は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。