Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第634話「friend 4」の感想・考察

こんばんは。ほあしです。

今週の『BLEACH』の感想です。

 

BLEACH』第634話「friend 4」

 ハッシュヴァルトの斬撃で吹き飛ばされるバズビー。ハッシュヴァルトは「陛下に利する事は無い」という理由で戦いを止めさせようとしますが、バズビーがそれで戦いを止めるわけがありませんよね。このときハッシュヴァルトが叫んだ「バザード・ブラック」というのがバズビー(Bazz-B)の本当の名前なのでしょう。個人的には、彼がブラック(綴りは”Black”と考えてよいでしょう)という名前を持っているという点にはかなり重要な意味合いを感じています。

 『BLEACH』という作品では、「白」と「黒」の対比がきわめて意識的に表現されています。もっとも分かりやすいものとしては、黒衣をまとう死神の「黒」と、虚の仮面や滅却師の装束を象徴する「白」の対比。この点については以前に別の記事で大きく取り上げました。

作品論4 ~『BLEACH』という題名の意味~ - Black and White

作品論5 〈破面篇〉=スペインの新大陸侵略 - Black and White

作品論6 〈千年血戦篇〉=ナチス・ドイツの世界侵略 - Black and White

 あるいは〈尸魂界篇〉で明確に表現された「一護」と「朽木哉」の対比というのもありましたね。彼ら二人の戦いの最終局面を描いた第166話のタイトルがまさに「Black and White」でした。上記の記事で示したような大きな勢力関係の話だけではなく、個別のキャラクター間でもこういう対比が繰り返し示されています。

 

 ただ、今回のバズビーとハッシュヴァルトについていえば、これが必ずしも「白」と「黒」の対比であるとはまだ言いきれないのかなと思っています。たしかに、「ハッシュヴァルトを象徴する特定の色を何か挙げてください」と言われれば、おそらくそれなりに多くの人が「白」という回答を出しそうだなとは思うんです。しかし、「では、「白」がハッシュヴァルトを象徴していると判断する理由を説明してください」と言われると、これに対しては明確な回答があまり出てこないのではないかとも思うんですよ。「なんとなく「白」のイメージがある」とは思うけれども、そのはっきりとした理由は意外と見当たらない、という感じではないでしょうか。黒髪で黒い外套をまとったユーハバッハの傍にいるせいで、白装束や金髪による明るい色調がより強く印象に残っている、というくらいかと思います。

 個人的には、この場面ではむしろ、彼らは二人とも「黒」のイメージを付加されているのかなと思うんです。バザード・ブラックだけならまだしも、なぜハッシュヴァルトまで「黒」ということになるんだと言われそうですが、ハッシュヴァルトという名前にも「黒」は隠れています。Jugram Haschwalthという綴りのなかには、ドイツ語で「黒」を意味する”Schwarz(シュヴァルツ)”という語にきわめて近い文字列が存在しているからです。

 では、なぜ彼ら二人がそろって「黒」のイメージを付加されているのか。わたしのきわめて個人的な読解ですが、これはおそらく、彼らが二人とも、相手の信頼・友情を裏切るという「罪」を犯し合っているからだと思います。

『BLEACH』第633話「friend 3」の感想・考察 - Black and White

 先週の感想記事でも述べたことですが、彼らはお互いのことを裏切り合っていたわけです。ハッシュヴァルトは「バズビーの肉親の仇であるユーハバッハに味方する」という裏切りを、バズビーは「自分を差し置いてユーハバッハに見初められたハッシュヴァルトを友人として祝福せず逆恨みする」という裏切りを、互いに働いていたわけです。彼らの自尊心のありようや行動原理を考えれば、どちらも避け得ない裏切りではあったわけですが、裏切りであることには違いありません。

 先に挙げた記事(作品論4 ~『BLEACH』という題名の意味~)のなかで、『BLEACH』には「罪を洗い流す物語」という側面がある、という話をしました。そのなかで、「黒」は罪人を象徴する色、「白」は潔白を象徴する色、ということを述べました。この読み方を採用すれば、バズビーとハッシュヴァルト双方の名前に「黒」のイメージが含まれていることにもそれなりに説明がつくのかなと思います。裏切りという「罪」を犯しあった者たちだからこそ彼らの名には「黒」が含まれている、という考え方です。そもそもバズビーは『見えざる帝国』自体を裏切っているわけですから、その意味でも「黒」と見做されるには十分だと言えそうです。

 

 あるいはこの戦いは、〈尸魂界篇〉での恋次vs白哉戦を反復したものとして読むことも可能だと思います。恋次は、あまりにも遠すぎる背中であることを知りながら白哉を追い続け、卍解を修得したのちに決死の覚悟で挑んでもやはり敵わず、自分の敗北を認めます。バズビーもまた、突然自分を置き去りにして遠くへ行ってしまったハッシュヴァルトの背中を追い続け、そしてやはり敵わず、今回自らの敗北を認めています。また、敗北を認めた瞬間の恋次とバズビーは、どちらも「相手の胸元に手を置く」という非常によく似た姿勢になっているという点にも注目したいです。

f:id:hoasissimo:20150713152210j:plain

f:id:hoasissimo:20150713141557j:plain

f:id:hoasissimo:20150713142037j:plain

f:id:hoasissimo:20150713141621j:plain

久保帯人BLEACH』17巻7,27,101~102頁)

 

 また、恋次白哉の戦いでは、「白」と「赤」という色の対比が強調されていました。朽木哉が「白」、阿散井恋次が(おそらくは髪の色に引っかけて)「赤」のイメージを付加されていました。彼らの戦いを収録した単行本17巻の表題は「Rosa Rubicundior,Lilio Candidior(ラテン語「薔薇より赤く、百合より白く」の意)」であり、その巻頭に書かれたフレーバーテキストもまた「白」と「赤」という二つの色に焦点を当てたものでした。

f:id:hoasissimo:20150713144708j:plain

久保帯人BLEACH』17巻巻頭)

 バズビーとハッシュヴァルトの二人もまた、「白」と「赤」という二つの色で対比されているように見えるんですよね。ハッシュヴァルトは見た感じのイメージとして「白」という色が印象づいていますし、バズビーの髪色は恋次と同じ赤色ですし、白哉恋次のことを猿猴と形容したのと同じく、バズビーもまた「猿」という言葉で罵られていますし。という感じで、このたびの戦いを恋次vs白哉戦のリフレインとして読んでみると、また違った読感が生まれるかもしれません。

f:id:hoasissimo:20150713151628j:plain

久保帯人BLEACH』17巻66頁)

 

 前回の回想から三年という時間を費やして、バズビーは「星十字騎士団」に抜擢されたようです。バズビーがどんなに挑発しても、ハッシュヴァルトは決して彼と戦おうとはしません。ヒューベルトを強く牽制していることから分かるように、ただ規則によって私闘が禁じられているからという以上の思惑が彼のなかにはありますよね。その思惑がどういうものなのか、まだはっきりとは分かりませんが、やはりハッシュヴァルトはバズビーを心底から憎みきることができないのかなとわたしには思えます。重大なすれ違いがあったとはいえ、大切な「友達」だったわけですから。

 腕を切断されたバスビーが放った渾身の大技すらあえなく躱され斬り伏せられて、バズビーはとうとう自らの敗北を認めます。ハッシュヴァルトがこれまで徹底してバズビーとの戦いを避けてきたということは、彼ら二人のあいだでは、勝ち負けが明確に決したことは今まで一切無かったということでもありますよね。戦っていない者同士のあいだに勝敗など付くわけがありませんから。もちろん、ユーハバッハとの邂逅をきっかけとしてバズビーのなかに生じた心理的な敗北というのはあったでしょうが、それについてバズビーは「俺はまだ お前に敗けちゃいねえ」といって認めようとしていません。だからこそ、「…お前に敗けたら……もっと悔しいもんだと思ってたぜ」という、「いまこの瞬間に初めて敗けた(=いままでは敗けていなかった)」というニュアンスを含んだ言い回しになっているんだと思います。

 バズビーのこのセリフを見ると、彼もまた、ハッシュヴァルトという人物を心底から憎んでいたとは思えないんですよね。彼がこだわっていたのは「ハッシュヴァルトに勝つこと」ではなく、「自分が納得できるやり方でハッシュヴァルトとの勝敗を付けること」だったのではないかなと。

 というのも、ユーハバッハがハッシュヴァルトの力だけを見出してバズビーの力を認めなかったときの彼の怒りは、「なぜ選ばれたのが自分ではないのか、なぜハッシュヴァルトなのか」という、勝敗の判断基準に納得がいかないことに対する怒りだったんですよね。つまり、勝敗を付ける手続きへの怒りだったわけです。だからこそバズビーは、ハッシュヴァルトを執拗に挑発して直接対決しようとしていたのだと思うんです。「どちらがより強いのか」を判断する手続きとして、それが最も分かりやすい手段だからです。だから、今回こうして直接対決をした時点で、バズビーの願いはすでにほぼ達成されていたのではないでしょうか。結果として自分が敗けたとしても、今度は「自分が納得できるやり方で勝敗を付けた」わけですから、それは当然のこととして引き受ける(=敗けを認める)、ということです。

 だから、いまのバズビーのなかにはそれほど大きな悔しさは生まれていないのでしょう。むしろ、ユーハバッハの側近としてとはいえ、「最強の滅却師にかなり近いところまで上り詰めているらしいかつての友・ユーゴーを、バズビーは今度こそ祝福してやることができたのかもしれません。あまりにも遠回りすぎ、だからこそより一層尊い友情です。

 そして、これは同時に明白な「訣別」でもあるんですよね。ハッシュヴァルトがユーハバッハの許で生きるということを、バズビーはこの敗北によって肯定したということですから、彼らはここで完全に袂を分かつことになったわけです。「訣別譚」の銘に相応しいエピソードだと言えると思います。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。