Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。

『BLEACH』第628話「New World Orders」の感想・考察

 こんばんは。ほあしです。

 今週の『BLEACH』の感想です。

 

BLEACH』第628話「New World Orders」

 隊長格らが霊王宮に侵入しました。やはり、地上から剥がれた『見えざる帝国』の街並みが霊王宮で再構成されたようですね。しかも、陥落させられた霊王大内裏と五つの零番離殿とを繋ぐことで、ちょうど滅却師を象徴する「星」形の紋章になっています。また、五つの頂点部分が丸く膨らんだ「星」形というのは、雨竜がしばしば着用していた滅却師の伝統衣装にあしらわれているものです。零番離殿の配置から考えると、少なくとも霊王宮が最初に描かれた時点で、「霊王宮が滅却師らの手に落ち、巨大な星形の国家へと創り変えられる」という現在のストーリー展開がすでに織り込み済みだったのではないかと思われますね。

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久保帯人BLEACH』4巻185頁)

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久保帯人BLEACH』58巻178~179頁)

 

 今週のタイトルは「New World Orders」です。内容に即して直訳すると「新たな世界の秩序」という感じでしょうか。ただ、”order”という言葉を「秩序・道理」という意味で用いる場合は不可算名詞扱いになりますから、このタイトルのように複数形で用いることはできません。そこで可算名詞として扱われる意味合いの中で相応しそうなものを考えてみると、「体制」という意味があります。この意味であれば、ユーハバッハが霊王に代わる真正の神として世界に君臨し、「新たな世界の体制」をこれから敷くことになる、というような意味合いで読むことができそうです。いずれにしても、「新たな世界の体制・秩序がこれから始まるのだ」ということを端的に示すタイトルとして読むことができると思います。

 

 夜一からはじめて夕四郎のことを聞かされた一護らは、「白打の天才である四楓院家の家督を継ぐ男=めっちゃ強い武闘家=辮髪のマッチョ」という古式ゆかしいドラクエ的思考回路を見せています。こうしたギャグ描写は、いま久保先生がドラクエXにハマっているというのが理由にあるのかもしれませんね。無いのかもしれませんが。黒猫ケモ死神も非常にかわいいです。これ、普通の登場人物の一人として劇中で活躍していたらものすごく人気が出るやつではないかと思います。獣人キャラといえば狛村がいますが、犬と猫とでは受容のされ方が大きく違いますし。

 

 霊王の死がどうやら間違いない事実であるらしいという点について、京楽は「敵の手によって霊王が死んだなら 敵を倒して新しい霊王を決めればいい」と言います。「新しい霊王」という不穏な単語があまりにも平然と飛び出しましたね。尸魂界の麾下・協力関係にある者の中では、やはり一護藍染あたりがその最有力候補でしょうか。一護の友人や家族には「場合によっては一護が現世へ戻れなくなるかもしれない」という連絡がすでに京楽からなされています。一護に新たな霊王になってもらうとなれば、当然、現世へ帰ることはできなくなるでしょう。

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久保帯人BLEACH』61巻99~100頁)

 

また、もし藍染が霊王の座に収まれば、「私が天に立つ」という悲願が(少なくとも状況としては)成就することになります。またその場合、「利害が近いところにある」という京楽の言葉がやはり効いてくるかと思います。藍染にとっての「利」とは、「霊王を廃して新しい世界の秩序を創ること」に集約されるわけですから。

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久保帯人BLEACH』20巻220~221頁)

 

 また京楽は、霊王の死をどう埋め合わせるか、どうやって瀞霊廷を護るかという話題の中で、浮竹の不在に触れていますね。この戦いにおける京楽・浮竹らの行動原理が徹頭徹尾「護廷」という目的に集約されている(少なくとも京楽はそのように考えている)らしいことが分かります。

 

 などと言っているうちに、滅却師らの本陣が姿を現しました。白哉の見立て通り、いまのユーハバッハは、地形を変える程度のことは本当に造作もなくこなしてしまうようです。この「どこからでもかかってこい」とでも言わんばかりの挑発的な行為に対して、京楽が傍目にもわかるほどはっきりと戦意を滾らせていますね。京楽は、相手を殺さなくても構わない、勝ちに転んでも負けに転んでも大勢に影響のないような戦いについてはまるでやる気を見せませんが、逆に絶対に相手を殺さねばならないような状況では決して容赦せず、むしろ戦意を剥き出しにしていくというタイプの戦士なんですよね。

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久保帯人BLEACH』12巻144~145頁)

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久保帯人BLEACH』38巻148頁)

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久保帯人BLEACH』39巻76,166~167頁) 

 このように振り返ってみると、いまの京楽がユーハバッハのことを「絶対に始末しなければならない敵」として捉えているということが分かりますね。だからこそ彼は「護廷」という目的に邁進しているのでしょうし。

 また、ここで「護廷の為に進もうじゃないの」「やってくれるよ」と言っている京楽の絵ですが、久保先生、眼帯の紐を描き忘れていらっしゃるようです。京楽の眼帯描き忘れは以前にも何度かありましたが、やはり長年眼帯無しで描いてきたキャラクターですから、手癖として忘れがちになるのでしょうね。

 

 場面が変わって、先ほど出現した滅却師の本拠地。一護らと隊長格らが滅却師の新しい「国家」に侵入した旨を報告するハッシュヴァルトは、その「国家」の名をユーハバッハに問いかけます。ユーハバッハは自ら建てた新しい「国家」『真世界城(ヴァールヴェルト)』と呼び、唯一にして真の世界がこれから始まるのだと告げます。

 言葉の響きと漢字の表記から判断すると、「ヴァールヴェルト」とはおそらくドイツ語で"wahr welt"と表記するものと思われます。”wahr”は「真の・真実の」を意味する形容詞、”Welt”は「世界」を意味する名詞です。まさしく「真の世界」というわけですね。ユーハバッハが世界の新たな神として君臨するつもりであることを思えば、ごく自然な命名だと思います。

 

 また、ハッシュヴァルトがユーハバッハのことを「ユーハバッハ様」と呼ぶようになっているのも印象的です。これまでハッシュヴァルトがユーハバッハを呼ぶシーンでは、例外なく「陛下」という尊称が用いられており、「ユーハバッハ様」という呼び名が使われたことはただの一度もありませんでした。「ユーハバッハ陛下」という呼び名であれば一度だけ使われたことがありますが、その呼び方にしてもやはり「陛下」という尊称が用いられていますね。

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久保帯人BLEACH』63巻88頁)

 

 この「陛下」という言葉を付けるか付けないかという変化は単なる偶然なのかもしれませんが、あえてこの点に何らかの意味を見出すとするなら、それはやはり滅却師「国家」の名前が変わったことに関連があるのではないかと思うのです。これまで、彼ら滅却師は自らの国家について『見えざる帝国』と名乗っており、ユーハバッハはその「皇帝」を自称していました。「帝国」という体裁を取っていたからこそ、「陛下」という呼び名があり得たわけですね。

 しかし今週、『真世界城』という新たな名前が与えられたことで、「帝国」という従来の名前が一旦脇に措かれたかたちになります。天に堂々と聳えるあの威容を表す言葉として「見えざる帝国」という名前は全く似つかわしくありませんし。だからハッシュヴァルトもまた「陛下」という呼び名をやめて、「ユーハバッハ(=聖書宗教の唯一神YHWHと同じ名前)」にただ敬称を付けるという呼び方にシフトしているのではないかと思います。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

 それでは。