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Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。寄稿のご依頼などはhoahoahoashi@gmail.comまでどうぞ。

『BLEACH』第618話「The Dark Arm」の感想・考察

 

こんばんは。ほあしです。

今週のBLEACHの感想です。

 

BLEACH』第618話「The Dark Arm」

 先週のヒキからそのまま始まりました。藍染の挑発に対して京楽は、すでに封印が解除されている「左目」と「足首」の鍵を使って応酬しています。こういう咄嗟の機転が利くというか、藍染のプレッシャーに簡単には呑まれてしまわないところが京楽らしくてかっこいいですね。

 京楽は、「”無間”の鍵を心臓に埋め込む」という条件を飲んででも藍染を合流させたがっているようです。しかも封印の大半は残したままでの合流ですから、藍染にはよほど重大な何かがあるのでしょう。おそらくその何かが、ユーハバッハが彼を特記戦力の一つに数えていることとも繋がるのでしょう。余談ですが、京楽が藍染を地上へ運ぶために用意していた椅子は、背もたれのデザインなどを見た限りでは〈破面篇〉のラストで藍染が座らされていた椅子と同じもののようですね。

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久保帯人BLEACH』48巻192頁)

 また、藍染を安全に拘束して地上へ運ぶなどするために同行していたのだと思われるスタッフの一人が、藍染の身体に直接触れようとして手指を失っています。これと同じように、「藍染に近づいただけで霊体が破壊される」という描写は〈破面篇〉の時点ですでに為されていました。藍染は崩玉と融合したことによって超越的な霊圧を手に入れましたが、それは今もって健在なようです。

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久保帯人BLEACH』47巻108頁)

 ちなみにこのスタッフたち、同じ所属と思われる人々が過去にも三度ほど登場していましたね。一度目と二度目は〈尸魂界篇〉で、囚人であるルキアを移送しているとき。もうひとつは〈千年血戦篇〉の序盤、「見えざる帝国」による宣戦布告の際に戦死した雀部の遺体を荼毘に付すときです。

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久保帯人BLEACH』9巻170,173頁)

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久保帯人BLEACH』17巻123頁)

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久保帯人BLEACH』55巻130頁)

 彼らがどういう組織に所属しているのかは分かりませんが、囚人の移送や隊士の葬儀などに関わっているのを見る限り、そうした「汚れ仕事」と見做されるような仕事を担当しているのでしょう。ここで一つ思い当たったのですが、全部で五つの分隊に分かれている「隠密機動」の第三分隊「檻理隊」が実は彼らだったりするのではないでしょうか。

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久保帯人BLEACH』36巻55頁)

 囚人の監督業務がその主な仕事のようですから、彼らが「檻理隊」であると仮定すれば、ルキア藍染の移送の際に姿を見せることとも繋がるように思います。死亡した隊士の隊葬なども併せて担当しているのかもしれません。「隠密機動」は分隊によって服装も異なるようですから、彼らの仕事着はこの白装束である、ということなのでしょう。

 

 話を戻します。京楽は藍染「ボクらの利害はきっと 近いところにあるんじゃないかと思ってる」と言って合流を促していますね。京楽のこの発言、「従来の尸魂界が維持してきた秩序を守る」という観点から考えるとかなり危険な発言のように思われます。なぜなら、藍染がかつて果たそうとした大目的は、「霊王を廃して新しい世界の秩序を創ること」だったはずだからです。霊王が死に、いまにも世界は崩れ去ってしまうかもしれないというこの状況にあって「藍染惣右介と利害関係を共有する」ということは、霊王に基づいた現在の秩序を否定するということになりかねません。

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久保帯人BLEACH』20巻220~221頁)

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久保帯人BLEACH』48巻166~167頁)

 〈破面篇〉の始まりと終わりをこうして並べてみれば一目瞭然ですが、藍染の叛乱の目的は終始一貫して「霊王を廃して新しい世界の秩序を創ること」に集約されていました。『王鍵』の在り処や創生法を求めていたのも、霊王宮へ侵攻するためです。京楽が「利害が近いところにある」という言い方で藍染を合流させようとしているということは、京楽は藍染を、霊王に代わる「新たな神」として祭り上げてやるつもりなのかもしれません。そもそも霊王のみに頼りきりである現状のシステムがすでにその脆弱性を露呈してしまっているわけですから、逆にこの危機を利用して抜本的な構造改革を断行してやろうという動機づけも十分に存在すると言えます。「世界の正義」と「自分の正義」を天秤に掛けたときに、自分の正義を優先して動くことがあり得るのが京楽春水という男ですし。

 

 今週のタイトルは「The Dark Arm」でした。両断された霊王を辛うじて繋ぎとめる「黒い腕」のことでしょう。

 場面は霊王宮へ。ここでの「千切れた腕には最早霊王の意志は宿っておらぬと言う事か」というユーハバッハの台詞は解釈が難しいです。『全知全能』による未来視には「意志があるかどうか」が関係しているということなのでしょうか。あるいは「霊王についての未来視」にのみ、何らかの限界や制限などがあるのかもしれません。いずれにせよ、ユーハバッハの『全知全能』に掌握されないものが存在しうるということくらいは言えそうです。

 ユーハバッハは黒い霊圧のようなものを噴出して霊王を攻撃しようとしていますが、これは滅却師が用いる『神聖滅矢』のようにも見えます。大虚が使用する『虚閃』に白いものと黒いものがあったように、『神聖滅矢』にもまた白いものと黒いものがあるのかもしれません。だからこそ、虚と滅却師両方の力を持って生まれてきた一護の『月牙天衝』にも白と黒のバリエーションが生まれたのだ、と考えることもできそうです。ユーハバッハと大虚の類似性や『斬月』の能力の正体などについては、以前にもお話ししましたね。

深読み1 ~ユーハバッハの正体を考える~ - Black and White

 

伏線2 ~『斬月』の正体にまつわる描写~ - Black and White

 

 一護がユーハバッハを足止めした隙に、夜一は霊王を今の状態のまま留め置こうとして何らかの術式を展開しています。彼女は元・二番隊隊長ですから、鬼道の類も人並み以上に扱えるのでしょう。余談ですが、いままでに登場した鬼道や術式のなかでいえば、〈破面篇〉の冒頭で単語だけ登場した「空間凍結」などに近いものなのかもしれませんね。

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久保帯人BLEACH』23巻143頁)

 

 この後に続くユーハバッハと一護の問答、〈千年血戦篇〉のテーマがここにすべて集約されているのではないかと思えるほど示唆に富んでいますね。滅却師の血」という言葉からも分かるように、ユーハバッハは、「血」によって人間の行動や意思決定のあり方が規定されるはずだという信念に基づいて問いかけをしています。それに対して一護は、自分がユーハバッハの血を引いているという「血」に基づいた因縁を「そんな事で 俺はあんたの思い通りにはならねえ」という言葉で一蹴しました。

 〈千年血戦篇〉の途中から銘打たれた副題を、皆さんは憶えておいででしょうか。

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久保帯人BLEACH』60巻巻末 次巻予告)

 〈千年血戦篇・訣別譚〉というタイトルが、本エピソードには冠せられているんですね。今週の一護とユーハバッハの問答は、まさしく一護が自分自身の「血」と訣別した、その決意を表明した瞬間を描いたものとなっています。久保先生が〈千年血戦篇・訣別譚〉を描いている理由の少なくとも一部分には、このシーンを描くため、という目標があったのではないかと私は思います。この一護の決意表明は、のちのち『BLEACH』という作品を振り返って語ろうとしたとき、絶対に外すことができないというくらいに重要な位置づけになっているはずです。

 

 また、「俺以外の誰かにできたとしても 俺がやらずに逃げていい理由にはならねえんだよ」という台詞は、一護の性格やものの考え方を大きく規定していると思われる、「一護という名前の由来」を思い出してみるとより解釈しやすいかと思います。

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久保帯人BLEACH』3巻55,57頁)

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久保帯人BLEACH』6巻79頁)

 これらの一護の言葉からも分かるように、一護は自分の名前の由来を聞かされたことで、はじめは母親を、次いで妹たちを、やがては「山ほどの人」を、護りたいと思うようになっていったわけです。一護が誰かを護ろうとするのは、強い力を持ったことによる自惚れや責任感からではなく、ただ彼自身がそのように欲しているからなんですね。こうした一護の考え方については〈千年血戦篇〉に突入してからも一度語られています。

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久保帯人BLEACH』58巻160~163頁)

一護が誰かを「護りたい」と強く思うその動機の根本を辿っていくと、つまるところ「一護という名前がそういう意味だから」という点に集約されていくんですね。その意味で今週の一護の台詞は、単なる「血」のみによる繋がりではなく、家族や仲間としての内面的な絆を共有していることを俺は大切にするぞ、という表明にも捉えられそうです。そしてこうした内面的な絆のことを、志波海燕「心」と呼んでいたことも思い出しておきたいですね。

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久保帯人BLEACH』30巻161~162頁)

 以下は余談ですが、『BLEACH』の世界では、「名前」というものがきわめて大きな力を持っています。いわゆる「名は体を表す」ということわざを地でいく世界なんです。まなこ和尚の斬魄刀『一文字』などは、まさにそれを体現していますよね。「名も無き者に力無し」と和尚は言っていましたが、これは裏返せば、「名が有る者には力が有る」ということなのです。過去の記事で私が、いくつかのキャラクターの名前に隠された意味についてしつこく言及してきたのも、『BLEACH』がこういう力学に基づいた作品だと考えているからこそです。

 

 どえらい脱線でした。こうした一護の言葉を、当然ながらユーハバッハは認めないようです(ユーハバッハという名前もまた、彼が聖書宗教における唯一神YHWHに相当する存在である、それと同等の力がある、ということを物語っていますね)。ユーハバッハの否認の言葉とともに”眼”にクローズアップして今週は幕。気になったのは、激昂した一護が、始解状態であるはずにもかかわらず、従来は卍解状態でしか撃てなかったはずの黒い『月牙天衝』を使用しているらしいことです。本格的な戦闘突入が楽しみですね。

 

 今週の感想は以上です。

 ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。

 それでは。