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Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。寄稿のご依頼などはhoahoahoashi@gmail.comまでどうぞ。

作品論7 ~『BLEACH』における太陽、月、愛~

BLEACH 考察

こんばんは。ほあしです。

今回は、『BLEACH』において「太陽」と「月」が象徴するものについてお話しします。

BLEACH』には、「太陽」と「月」を想起させるような描写、言葉、モチーフが至るところに登場します。それらを丁寧に観察することで、「一護が倒すべき敵」と「一護が護ろうとしているもの」の姿が浮かび上がってきます。

 尸魂界のシンボルとしての「太陽」

BLEACH』における「太陽」とは、まず第一に尸魂界のシンボルになっています。そのように言える理由は以下の通りです。

 

卍解=太陽十字

 前回の記事で、卍解が「卍」という図形そのものの象徴になっている、という話をしましたね。「卍」は主に幸運の象徴として世界中で古くから使用されてきた図形なのですが、地域によってさまざまな発祥があります。その中で注目したいのが、古代のヨーロッパで発生した「太陽十字」という図形です。

太陽十字 - Wikipedia

 円の中に十字を描いた、非常に単純な図形です。西洋では、この太陽十字が変形して「卍」の記号が生まれたとされています。つまり「卍」の記号には、太陽のシンボルとしての意味合いが元来含まれているのです。

卍解とは「斬魄刀戦術の最終奥義」(『BLEACH』19巻71頁)ですから、死神の戦術そのものを象徴するものです。その名前のなかに「太陽」の含意があるわけです。

 

また、一護卍解『天鎖斬月』の鍔は「卍」の形そのものですから、『天鎖斬月』もまた「太陽」を象徴しているものと考えられます。その傍証として、

BLEACH―ブリーチ― OFFICIAL CHARACTER BOOK SOULs.

2006年に発売された『BLEACH』のキャラクターブックがあります。その巻頭には、『BLEACH』単行本の巻頭詩と同じく、その内容を象徴するかのような言葉が掲載されています。

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す」というのは明らかに『天鎖斬月』のことを指しているフレーズですから、『天鎖斬月』=「太陽」と考えてほぼ間違いないでしょう。余談ですが、以前こちらの記事で述べたことと併せて考えると、一護は「星」でもあり「月」でもありまた同時に「太陽」でもあるのだ、ということが言えそうです。

 

元柳斎の卍解

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久保帯人BLEACH』57巻148,152,153頁)

また、死神の長として長らく総隊長の座に君臨した元柳斎の卍解は、「太陽」そのものを具現化したかのような能力です。東に旭日、西に残日ですから、まさしく太陽そのもの。死神を代表する人物の卍解「太陽」をモチーフにしているのです。

 

「太陽の門」

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久保帯人BLEACH』56巻7頁)

『見えざる帝国』が尸魂界へ侵攻する直前のシーンです。その状況から、「太陽の門」というのは尸魂界へ続く通行ゲートのようなものだろうと判断できます。つまり、『見えざる帝国』では、尸魂界をずばり「太陽」に例えているわけです。

 

 以上の点から、「太陽」卍解のシンボルであり、牽いては尸魂界のシンボルになっていると考えられます。

 

一護が倒すべき敵としての「月」

一護斬魄刀は『斬月』といいます。これを日本語に読み下すと「月を斬る」となります。しかし『月牙天衝』という「月」の名を冠した必殺技を持っていて、単行本余白ページのオマケ絵などでも「月」に例えられることの方が圧倒的に多いのですが、刀そのものの名前は「月を斬る」という正反対の意味になっています。なぜこういう名前なのでしょうか。

それは、一護が『斬月』を目覚めさせた〈尸魂界篇〉以降、一護が倒すべき宿敵として登場するキャラクターは全て何らかの形で「月」に関係するような描き方をされているからです。一護は「月」の象徴として描かれている一方で、同時に「月を斬る」ように運命づけられたキャラクターでもあるのです。

各エピソードにおける一護の宿敵を順番に見ていきましょう。

 

〈尸魂界篇〉での宿敵:朽木白哉

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久保帯人BLEACH』17巻66頁)

〈尸魂界篇〉での一護の宿敵、倒すべき相手は朽木白哉でした。白哉恋次との戦いの中で、「猿猴」の故事に寄せて、自分自身を「月」に例えています。

 

破面篇〉での宿敵:藍染惣右介

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久保帯人BLEACH』20巻69頁)

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久保帯人BLEACH』28巻32頁)

破面篇〉での宿敵は藍染惣右介です。彼の斬魄刀の名は『鏡花水』です。「鏡に映った花や水に映った月のように、目には見えるけれど手で触れることは出来ないまがいもの」を指します。藍染は自らの死を偽装したときに「岸壁の花」のような死に様を演出したり、また霊王に代わってこの世の神として天に立とうとしたりした人物ですから、彼のありさまをそのまま現したような名前ですね。

また、破面の雑兵・アイスリンガーは、藍染を「光」に例えています。藍染=月という図式は十分成り立っているでしょう。

 

〈死神代行消失篇〉での宿敵:月島秀九郎

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久保帯人BLEACH』50巻139頁)

〈死神代行消失篇〉では、島秀九郎が倒すべき敵として描かれていました。このエピソードの最終的な黒幕は銀城空吾でしたが、物語の大筋は月島を諸悪の根源として描くことで進行していましたし、彼は一護の友人や家族を幻惑して奪い去ったことで、一護が初めて明確な「殺意」を表明した人物でもあります。

ご覧のとおり、彼の名には「」の字が含まれています。

 

〈千年血戦篇〉での宿敵:ユーハバッハ or 石田雨竜

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久保帯人BLEACH』60巻187頁)

 〈千年血戦篇〉での一護の宿敵としては、まずはユーハバッハが考えられるでしょう。一護からしてみれば、ユーハバッハとは、一護の精神世界で『斬』の振りをしていた「千年前のユーハバッハ」、そのオリジナルにあたるわけです。ユーハバッハを斬るということは、ある意味では『斬月』を斬るということにもなるんですね。その意味で、ユーハバッハもまた「月」の表象と無関係ではありません。

あるいは、現在『見えざる帝国』の麾下にある雨竜が最後の敵として立ちはだかる可能性もあるかと思います。ユーハバッハの後継者として指名されているのですから、十分に考えられる話です。雨竜に「月」のイメージが付加されているというのはこちらの記事ですでにお話ししたことですので、ご確認ください。未完結のエピソードゆえに、まだ確定的な話が出来ないことをお許しください。

 

 このように、一護の宿敵は全て「月」に関係するイメージを付加されています。一護の倒すべき敵が「月」であるとするなら、彼は「月を斬る」ことで一体何を護っているのでしょうか。

それは、「尸魂界」や「家族としての女性」を象徴する、「太陽」なのです。

 

「太陽」になぞらえられる女性は「一護の家族」である

「太陽」が尸魂界のシンボルになっているということは、いまお話ししました。一護は物語の全編を通して尸魂界と深く関わり、その存亡の危機を幾度も救ってきましたから、「一護が尸魂界を護っている」という点についてはひとまず納得していただけると思います。

では、「家族としての女性」=「太陽」というのは一体どういう意味か。以下をご覧ください。

一護の母・黒崎真咲

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久保帯人BLEACH』3巻55頁)

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久保帯人BLEACH』60巻111頁)

一護の母・真咲について、前者は一護の視点から、後者は一心の視点から語られた場面です。一心などは、「真咲は太陽に似ていた」とはっきり述べています。太陽系の中心に位置して他の惑星を振り回す存在が太陽ですから、この惑星運行をイメージしたイラストから言っても、真咲は明らかに「太陽」を象徴する人物であることが分かります。

 

一護の妹・黒崎夏梨

夏梨の名前には、「太陽」を意味する言葉が隠れています。こちらの画像をご覧ください。

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久保帯人『ZOMBIE POWDER』1巻185頁)

『ZOMBIE POWDER』は、久保先生の連載デビュー作品です。この作品の中で、「太陽」の異称として「火輪(かりん)」という言葉が登場しています。「かりん」という言葉が「太陽」の異称であるということを、久保先生は『ZOMBIE POWDER』執筆当時から知っていて、自らの作品の中でその言葉を使用していた、という事実があるわけです。一護の妹に命名するに当たって、この「火輪」という言葉が踏まえられている可能性は十分にありうると筆者は考えます(夏梨の名前に隠された意味については、こちらでさらに詳しい話をしております)。

 

彼女らはどちらも一護の家族であり、また同時に、一護が「自分の手で護りたい」と強く願った人物でもあります。

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久保帯人BLEACH』3巻58頁)

一護がまず第一に「護りたい」と願っていた対象は、母と妹という「家族としての女性」だったわけです。そしてその母と妹はどちらも「太陽」を象徴するような描き方をされています。この意味で、一護「太陽」を護っているのだ、と言えるわけです。

さらに。

 

「月光が太陽の支配下にあること」=「愛」

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久保帯人BLEACH』34巻102~104頁)

第7十刃ゾマリ・ルルーが、自身の能力「愛(アモール)」について比喩的に説明したシーンです。「愛」とは、画像にあるように、太陽を模ったような紋章をゾマリによって刻まれた相手は「支配権」を奪われてしまうという能力です。このなかでゾマリは、「愛」の説明として、「月光は太陽の支配下にある」と言っていますね。筆者はこの「比喩」を、『BLEACH』における「愛」のありさまを暗示したものなのではないかと考えています。

どういうことかと言うと、再びこの画像をご覧ください。

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一護と一心の世界は、「太陽」である真咲を中心に回っていました。一護斬魄刀は『斬月』、一心の斬魄刀は『剡月(えんげつ)』といい、どちらも『月牙天衝』を使うことが出来ます。このことから、黒崎父子はどちらも「月」を象徴していると言えます。一護と一心(=月)はどちらも、「真咲(=太陽)に振り回されている事が幸せだった」のです。

この感情が「愛」ではないとしたら一体何だというのでしょう。好きでもない相手に振り回されてもただ不愉快なだけです。一護と一心は真咲のことを心底から愛していたからこそ、彼女に振り回されることが幸福だったのです。

BLEACH』という作品においては、「月光が太陽の支配下にあること」は、すなわち「愛」の象徴なのです。

 

ここまで確認してきたように、ゾマリ登場までの段階で「月」と「太陽」に象徴的な意味づけが行なわれているということはすでに明白ですし、サブキャラクターの能力解説セリフの中に作品読解のヒントをそれとなく紛れ込ませるという手法も十分にありうることです。ゆえに、ゾマリのこのセリフが、『BLEACH』における「愛」のありさまを端的に表現したものであると筆者は考えるわけです。

 

そして、真咲と夏梨以外にたった一人だけ、繰り返し「太陽」になぞらえられている女性キャラクターが『BLEACH』には存在します。

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井上織姫です。

 「織姫=太陽」というのはこちらの記事ですでに説明したことですので、今一度ご確認ください。またここでは織姫は「モンゴロイドの世界の神」として「太陽」に例えられていますから、「モンゴロイドの世界」である「空座町」もまた「太陽」を象徴しているのかもしれません。

 これは断言してもよいですが、2014年12月現在、真咲と夏梨以外で「太陽」に例えられたことのある女性キャラクターは織姫だけです。もし筆者に見落としがある場合は、是非とも教えていただきたく存じます。

「太陽」になぞらえられる女性キャラクターは「一護の家族」であり、一護が「護りたい」と強く願う対象である、という話を先程しました。であるならば、真咲と夏梨以外で唯一「太陽」になぞらえられている織姫は、最終的に「一護の家族」になるのではないかと考えられます。

 

破面篇〉を読んでもらえると分かるのですが、一護は織姫に対して「お前を護る」とはっきり宣言しているシーンがあるんですね。

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久保帯人BLEACH』22巻184頁)

一護がなにかを「護る」と口にするときは、基本的に「尸魂界」や「空座町」や「仲間」といった大きな集団をその対象として挙げるのですが、このシーンは、おそらく作品中で唯一、特定の個人に対して「あなたを護る」と宣言したものです。虚圏でのvsウルキオラ決戦では、一護は一度絶命したにもかかわらず、織姫の叫びに応えるように虚化して蘇生すらしていますから、この誓いの言葉が相当に重要な意味を持っているであろうことが窺えると思います。

また、織姫は父親代わりの兄を、一護は母親を喪っているという共通項があり、少なくとも織姫はそのあたりでシンパシーを感じているという描写がありますから、互いに欠落した家族を補完しあうようにして惹かれ合う、という機序も十分想定できるでしょう。異性親の面影に惹かれるというのは古今東西で使い古されたテーマですし。おすし。

というわけで筆者は、「最終的に一護とくっつくのは織姫なんじゃないかなー」と考えております。「家族」というテーマについてはまた別の記事としてまとめてもよいかなと思っていますので、これ以上の掘り下げはまたそのときに。

一護×ルキア」か「一護×織姫」かというのは、ファンの間では昔から大きな論争の的になっていますが、こういう見方もあるよねということでひとつよろしくお願いします。

 

おわりに

今回の議論をまとめます。

BLEACH』における「太陽」と「月」のモチーフを観察することで、一護が倒すべき敵と、一護が護ろうとしているものが浮き彫りになりました。

一護が倒すべき敵」は「月」です。それは朽木白哉であり、藍染惣右介であり、月島秀九郎であり、ユーハバッハであり、もしかしたら石田雨竜かもしれません。

一護が護ろうとしているもの」は「太陽」です。それは尸魂界であり、空座町であり、自分自身であり、母であり、妹であり、家族です。

また、黒崎父子と真咲の関係を紐解くことで「月光が太陽の支配下にあること」=「愛」という図式を見出すことが出来ました。またそこから、本作のヒロイン(「主人公とくっつくキャラクター」という、狭い意味でのヒロイン)は井上織姫ではないか、という類推が導かれました。

繰り返しになりますが、こういう読み方も可能ですよね、という話ですから、「この解釈こそが唯一の正解!異論は一切認めない!」などというつもりは毛頭ありません。気分を害した方がいらっしゃいましたら、申し訳ありません。

 

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

次回のテーマですが、虚・滅却師・完現術者の共通項といいますか、類似点について考えてみようかなと思っています。

それでは。