Black and White

『BLEACH』を愛して止まない男・ほあしが漫画の話をします。当ブログに掲載されている記事の無断転載を固く禁じます。寄稿のご依頼などはhoahoahoashi@gmail.comまでどうぞ。

作品論5 〈破面篇〉=スペインの新大陸侵略

こんばんは。ほあしです。

前回に引き続いて、『BLEACH』という作品タイトルに込められた意味づけについてお話しします。

 今回のテーマは「白色人種と有色人種の戦いを戯画化した物語」としての『BLEACHです。

結論から先に言うと、『BLEACH』の〈破面篇〉と〈千年血戦篇〉は、現実世界の歴史上でかつて実際に起きたある二つの「戦い」になぞらえて描かれている部分があります。そしてそれら二つの「戦い」はどちらも「白色人種による特定他人種の抹殺作戦(=広義の民族浄化)」であった、という共通点を持っているんですね。

具体的には、破面はスペイン人滅却師はドイツ人といった白色人種になぞらえられています。彼らは白い仮面や装束を纏っていて、それが一種のトレードマークになっていますよね。

そしてそれらの勢力が滅ぼそうとしている現世の人間はモンゴロイド(=黄色人種死神は黒人といった有色人種になぞらえられています。というのも、作中に登場する現世の人間は基本的にすべて日本人(=モンゴロイド)であり、死神は特徴的な黒衣を纏っているからです。

つまり、『BLEACH』には、「白人による民族浄化を題材にした物語」という側面があり、それゆえに『BLEACH』というタイトルが冠されているわけです。「有色のものを白色にする」というのが”bleach”という言葉の意味ですから、言葉の上の洒落としては成立していますよね。

 今回は〈破面篇〉について、それがどんな「戦い」を題材にして描かれているのか、作品中の描写を根拠にしてお話ししていきます。〈千年血戦篇〉については次回です。

 

破面篇〉=スペイン帝国による新大陸侵略

前提知識の整理

まず、前提知識となる高校世界史のおさらいから。

 16世紀前半、当時のスペイン王国は、いわゆる「新大陸」として発見された南北アメリカ大陸を侵略しました。その過程で、モンゴロイド系のアメリカ先住民が中米地域で築いていたインカ文明・アステカ文明を滅ぼし、後にスペイン系の移民がアメリカ大陸にやって来ます。この時に活躍したフランシスコ・ピサロエルナン・コルテスといったスペイン人征服者は、俗に「コンキスタドール(=conquistador、”征服者”の意)」と呼ばれています。

言うまでもなく、当時のスペインは白人が支配する国であり、インカ・アステカ両文明は基本的にモンゴロイドの国です。つまり、「白人がモンゴロイドの領土を侵略した」わけです。

この関係が〈破面篇〉の勢力関係と同じ構図になっている、ということが分かるでしょうか。

破面篇〉では、藍染率いる『破面』の軍勢が、『通常の人間』が暮らす空座町へ攻め込んでいます。空座町の住人はもちろん日本人ですから、人種的にはアメリカ大陸のモンゴロイド系先住民と近い系統にあります。

ですから、構図としては、「白人(=破面)がモンゴロイド(=通常の人間)の領土を侵略した」という、スペイン帝国による新大陸侵略のそれとピタリ一致するわけです。

「白色人種と有色人種の戦いを戯画化した物語」として『BLEACH』というタイトルが冠された、というのは、ひとまずこういう意味です。「白色の勢力と有色の勢力のせめぎあい」といったところでしょうか。

しかし、破面がスペイン語を話すから、というだけでは根拠が薄い」と思われた方もいらっしゃるでしょう。

以下に、この仮説を裏付ける作品中の描写を紹介、解説します。

 

根拠となる描写

”Conquistadores”というタイトル

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久保帯人BLEACH』22巻表紙)

破面篇〉の序盤、藍染配下の破面であるウルキオラとヤミーが空座町に襲来し、一護たちはこれと交戦します。ウルキオラ・ヤミーの襲来から撤退までを描いた190~195話には、全て”Conquistadores(コンキスタドーレス)”というタイトルが付けられています。先にお話ししたスペイン人征服者「コンキスタドール」の複数形ですね。破面の軍勢を「コンキスタドール」になぞらえているということが明白に分かるでしょう。

 

神の能力を持つ織姫=「太陽」=アステカの太陽信仰

以下の三つの画像をご覧ください。

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久保帯人BLEACH』27巻64頁)

藍染の画策した陽動作戦によって無防備になった織姫がウルキオラに拐取されるシーンです。このときウルキオラは、織姫のことを「太陽」に例えています。

 

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久保帯人BLEACH』27巻144頁)

また藍染は、織姫の能力『盾舜六花』による「事象の拒絶」をこのように形容しています。目の前の現象や事物を「無かったこと」にしてしまえる織姫は、冗談抜きで「神」に等しい力を持っているわけです。

 

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久保帯人BLEACH』35巻162頁)

藍染が空座町へ進軍を開始する直前、やはり織姫のことを「太陽」に例えて慰めの言葉をかけています。

 

以上の描写から、織姫が繰り返し「太陽」に例えられており、また同時に「神」の力を持っているということが分かるでしょう。ここでは「太陽」が「神」を象徴する記号になっているわけです。

スペイン帝国に滅ぼされたアステカ文明は、いわゆる「太陽信仰」を持っていたことが知られています。アステカの人々にとって、「神」とは「太陽」の化身だったのです。藍染たちが織姫のことを「神の力を持つ者」として「太陽」に繰り返し例えているのは、このアステカの太陽信仰を題材にしているからではないでしょうか。

 

チャドはスペイン系メキシコ人の子孫である

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久保帯人BLEACH』12巻165頁)

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久保帯人BLEACH』29巻173頁)

 チャドの祖父は「メスティーソ」です。これは白人とラテンアメリカ先住民(インディオ)の混血である人々のことを指す言葉ですが、歴史的経緯から、ここでいう「白人」の多くはスペイン人でした。また「Oscar Joaquin de la Rosa」という名前からして明らかにスペイン系のものですから、チャドの祖父はスペイン系メスティーソであると判断してよいでしょう(ホアキンというのは男性名Joachimがスペイン語系に変化したものですし、デラロサというのもスペイン系外国人によくあるファミリーネームです)。

そしてそのチャドは、自分の能力が「虚」に近いものであるらしいということを自ら明らかにしており、その能力の名前も一貫してスペイン語で語られています。「虚・破面=スペイン人」という構図がここでも成立していることが分かります。

 

霊王によく似た藍染ケツァルコアトル神に間違われたスペイン人

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久保帯人BLEACH』46巻158頁)

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久保帯人BLEACH』58巻188,189頁)

崩玉と融合して姿を変えた藍染と、霊王の顔です。よく似ていますよね。藍染の最終目的が「霊王に取って代わること」だったわけですから、似たような姿になるのはある意味当然の流れだったのかもしれません(藍染はこの後もさらに変身を重ね、最終的には元の姿を見る影もない化け物になってしまうのですが)。

 ここで注目したいのは、「破面(=スペイン人)を率いて空座町へ侵攻した藍染が霊王(=神)の姿によく似ている」という点です。

 スペインによる新大陸侵略には、次のような逸話があります。

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アステカにはテスカトリポカ神に追われた白い肌を持つケツァルコアトル神が『一の葦』の年(西暦1519年にあたる)に戻ってくる、という伝説が存在した。帰還したケツァルコアトルが古い世界を破壊して新しい世界を建設すると信じられていた。(中略)この伝説により、『一の葦』の年の2年前(1517年)から東沿岸に現れるようになったスペイン人は帰還したケツァルコアトル一行ではないかと受けとられ、アステカのスペイン人への対応を迷わせることになった。

アステカ - Wikipediaより抜粋して引用)

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ケツァルコアトルとは、アステカの人々が信仰した太陽神の一柱です。ケツァルコアトルは「白い肌の男性」であると言われていたため、スペイン人の姿を見たアステカ人たちは「ケツァルコアトル神が帰還したのではないか」と勘違いしてしまったそうです。

 この逸話、「空座町に降り立った藍染の全身が白い肌に覆われ、その姿が霊王によく似ている」という状況と重なって見えないでしょうか。モンゴロイドの住む土地にやって来た白い肌の男が、その土地の「神」の似姿をしているわけですから、ここでは破面=スペイン人、現世の人間=モンゴロイドという戯画化が為されていると言えるでしょう。

 

以上の描写が、破面篇〉=スペイン帝国による新大陸侵略という構図を筆者が見出している根拠です。

BLEACH』というタイトルには「白人による民族浄化を題材にした物語」という含意があるということが、ご理解いただけたでしょうか。

 

ちなみに

「死神=黒人」と考えられる根拠についてお話ししておきます。「黒衣を纏っている」という点以外にも、『過去篇』のなかで非常に象徴的な描写が為されているのです。

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久保帯人BLEACH』36巻14,26頁)

藍染の陰謀によって虚化させられてしまった元・死神の集団『仮面の軍勢(ヴァイザード)』。彼らが一介の死神から虚へ身を堕とすに至った経緯を明らかにすべく描かれたのが、〈破面篇〉中盤に語られた『過去篇』です。これらの画像は、その『過去篇』最初の回のあるシーンと、単行本の余白ページに書かれている作者の言葉です。

当時五番隊隊長だった平子は自室で「ジャズ」のレコードをかけていて、当時平子の副官だった藍染がそのことに触れているというシーンです。本当にただそれだけの他愛ない会話であって、このやり取りが後のストーリー展開に何らかの影響を及ぼしたりするということは一切ありません。言ってしまえばこれは「物語の展開上、何の意味もない会話」なのです。極端な話、このやり取りの内容を全く別の話題に変えたとしても、ストーリーテリングには何の不都合も起こりません。

しかも余白ページで作者本人が述べているように、110年前の時代には「ジャズ」という形態の音楽そのものがまだ存在していないのです(『BLEACH』の連載が始まったのが2001年のことであり、作品世界における『現世』の様子も基本的に実社会のありさまに即して描かれているようですから、ここでいう「110年前」とは、だいたい西暦1890年頃のことであろうと判断できます)。ジャズ音楽における最初の商業用レコードが発売されたのが1917年のこと(詳しくはこちらを参照)ですから、時系列的にそれよりも30年近く前のはずの『過去篇』で平子がジャズのレコードを聴いているというのは、時代考証として明らかに誤っている」んですね。本来なら、その時代にはまだ「ジャズ音楽のレコード」など存在していないわけですから。

そして何より象徴的なのが、時代考証として明白に誤っている事柄を、作者自身が誤りだと自覚した上で敢えて描いている」という事実です。そもそもこの「ジャズ」云々という会話はストーリー展開に一切関わらない内容なのですから、わざわざ盛り込む必要など一切無かったはずなのです。にもかかわらず、久保先生はこの「時代考証として誤った会話」を描き、そのことを本誌の目次コメントや単行本の余白ページで自らバラしてしまっています。

これを裏返せば、時代考証として無理があるというのは承知の上で、それでも「ジャズ」というキーワードをどうしても出しておきたい理由が久保先生の中にあった』と考えることは可能なのではないでしょうか。

 

筆者が考えるその「理由」は、こうです。

久保先生は、「死神と虚の中間的存在」である『仮面の軍勢』を象徴するものとして、「白人音楽と黒人音楽の中間的存在」である「ジャズ」を作品中に登場させたかったのではないか、と。

最初に述べたように、そもそもこの『過去篇』は、「死神と虚の中間的存在」である『仮面の軍勢』誕生までの経緯を語るために描かれたものです。「ジャズ」についての会話が為されているのは『過去篇』の最初の回ですから、この言葉が挿話全体のテーマを象徴するガジェットとして配されていると考えることは何ら不自然ではないでしょう。

以上の理由から、「ジャズ」という言葉は『仮面の軍勢』のなりたちを象徴する言葉であることが分かり、牽いては「虚・破面=スペイン系白人」「死神=黒人」という図式も導かれるわけです。

 

おわりに

破面篇〉を「白人による民族浄化の物語」として考える議論は、以上になります。

次回は〈千年血戦篇〉について同じテーマで考えます。引き続きよろしくお願いします。キーワードは「ドイツ第三帝国」です。

 

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。

それでは。